さよならモロッコ

さよならモロッコ：砂漠のロマンスと、一人の男の情熱

1974年、日本の映画界に、異色の作品が誕生しました。その名も『さよならモロッコ』。主演、製作、脚本、監督、そして音楽まで、マルチタレントとして活躍していた愛川欽也が全てを担った、まさに渾身の力作です。

舞台は、エキゾチックな魅力に満ちたモロッコ。CMディレクターとして働く岡田正夫（愛川欽也）は、ロケハンのためマラケシュの砂漠をジープで走ります。そこで出会ったのは、パリから来たマリーテレーズ（クロディーヌ・バード）。恋愛と仕事に挫折し、この地で新たな人生を模索する女優の卵でした。

砂漠の広大な風景の中、正夫とマリーテレーズは惹かれあい、静かで深い愛情を育んでいきます。しかし、彼らのロマンスは、はかなくも美しい砂漠の風景のように、儚く消えゆく運命にあるのでしょうか？

この映画は、単なる恋愛映画ではありません。愛川欽也自身の情熱と挑戦の物語でもあります。当時、ラジオ番組『パックインミュージック』のDJとして人気を博していた愛川は、自身の私財を投じ、さらに借金までして、この映画製作に挑みました。

撮影は、モロッコでのロケを敢行。約一ヶ月にも及ぶ長期ロケは、並々ならぬ努力と情熱の結晶と言えるでしょう。スタッフへの感謝、そして友人知人からの援助を得て、愛川は自主制作映画をロードショー劇場で公開するという偉業を成し遂げました。

劇場公開にあたっては、パンフレットも作成され、白石冬美、野沢那智、永六輔、小室等、天地真理、落合恵子、和田誠、黒田征太郎など、錚々たる面々からのコメントが寄せられました。さらに、サウンドトラックのEPレコードも発売されるなど、作品への期待の高さがうかがえます。

公開当初は、興行収入は低迷していました。しかし、愛川がラジオ番組でこの映画を話題にしたところ、驚くべき展開が待ち受けていました。多くの長距離トラック運転手が劇場に詰めかけ、映画を熱狂的に支持したのです。

この出来事を通して、愛川はトラック運転手たちの誠実さと情熱に共感し、強いシンパシーを感じました。そして、この経験が、後に東映で制作された人気シリーズ『トラック野郎』の企画へと繋がっていくことになります。

『さよならモロッコ』は、2008年にはファミリー劇場で放送され、愛川欽也本人が司会を務める『キンキンのコーヒーブレイク』の記念番組として放映されました。しかしながら、現在もDVD化はされておらず、幻の作品として語り継がれています。

愛川欽也のプライベートフィルムから始まった『さよならモロッコ』。その制作過程、公開後の出来事、そして後の映画制作への影響までを含め、この作品は、一人の男の情熱と挑戦、そして人との繋がりを映し出す、忘れ難い作品と言えるでしょう。 映画そのものだけでなく、その誕生秘話もまた、多くの人々を魅了する要素となっています。

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