しれとこ型巡視船

しれとこ型巡視船：日本の海洋警備を支えた1,000トン型巡視船

しれとこ型巡視船は、海上保安庁を支えた重要な巡視船の1つです。1970年代後半、国際情勢の変化と日本の海洋権益の拡大に伴い、従来の巡視船では対応できない状況が生じました。そこで、より強力で、航続距離も長く、悪天候下でも高い運用能力を持つ巡視船の建造が急務となり、しれとこ型巡視船は、そのニーズに応える形で誕生しました。

誕生の背景：拡大する海洋権益と領海警備

1970年代は、国際社会において海洋法に関する議論が活発化していました。国連海洋法会議を経て、沿岸国に200海里の排他的経済水域が認められるようになり、日本の管轄海域は大幅に拡大しました。同時に、領海侵犯や漁業紛争といった問題も増加。日本の海洋警備体制の強化は喫緊の課題となりました。

既存の巡視船では、拡大した管轄海域を効果的に警備するには不十分でした。そこで、より大型で航続力のある巡視船の建造が計画され、その結果として誕生したのがしれとこ型巡視船です。450トン型巡視船の代替と、大型巡視船の増強という二つの目的を持って建造されました。

設計と性能：耐氷構造と居住性の向上

しれとこ型は、先行するだいおう型をベースに設計されましたが、凌波性、居住性、装備の近代化において大きな進歩が見られます。悪天候での航行能力を高めるため、船首形状を改良し、耐氷構造も採用。乗員の居住性向上にも配慮し、減揺タンクの設置や居住区の改善などが行われました。

機関は、高出力のディーゼルエンジンを2基搭載し、高い航行性能を実現。兵装面では、搭載される機関砲などは建造時期によって違いが見られます。初期の船にはボフォース40mm機関砲が装備されましたが、後にエリコン35mm機関砲に換装されたものもあります。また、コスト削減のため、大型巡視船としては珍しく、統合情報センター(OIC)は搭載されませんでした。搭載艇も工夫が凝らされ、高速警備救難艇に加え、沖縄サミット以降は高速艇やクレーンなども搭載するようになりました。

運用と退役：尖閣諸島警備への貢献

しれとこ型は、1978年から1982年にかけて28隻が建造され、全国の海上保安部に配備されました。長年にわたり、日本の海洋警備の最前線で活躍しました。東日本大震災の際、「まつしま」(後に「おしか」と改名)が津波を乗り越えた映像は世界中で報道され、その堅牢性と信頼性が改めて証明されました。

近年、尖閣諸島周辺海域における中国船の領海侵入が問題となる中、しれとこ型は、より近代的な巡視船が配備されるまでの間、重要な役割を果たしました。その後、新型の巡視船の配備が進み、2016年に「かとり」の退役をもって、全船の運用が終了しました。

映画・ドラマへの登場

しれとこ型巡視船は、映画「海猿」シリーズにも登場しています。劇中では、架空の船名で登場していますが、撮影には実際のしれとこ型巡視船が使用されています。

まとめ

しれとこ型巡視船は、日本の海洋警備史において重要な役割を果たした巡視船です。国際情勢の変化に対応し、日本の排他的経済水域の拡大、そして領海警備の強化に貢献しました。その堅牢性、航行性能、そして乗員の安全確保への配慮は、後の巡視船の設計にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。多くの困難な任務をこなした、日本の海洋を守るための重要な戦力でした。

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