しんがぎん

しんが ぎん

日本の漫画家、しんが ぎん（本名：熊澤 栄二）。1972年7月10日に山形県鶴岡市で生を受け、2002年5月26日にわずか29歳でその生涯を終えました。山形県立鶴岡南高等学校を経て新潟大学人文学部を卒業後、主に集英社の『週刊少年ジャンプ』誌上で活動を展開し、『鬼が来たりて』を代表作として知られています。漫画執筆のかたわら、Leaf作品などを題材にした同人活動にも精力的に取り組んでいました。

彼の用いたペンネーム「しんが ぎん」のうち、「しんが」の部分については本人さえ由来を覚えていなかったとされます。「ぎん」は、本名である栄二の「栄（えい）」を元素記号の銀（Ag）になぞらえたものだと言われています。一般的には「しんが」が姓、「ぎん」が名に相当する形式ですが、親しい間柄であった尾田栄一郎氏やファンからは「がぎん兄さん」という愛称で呼ばれていました。

キャリアの始まりはプロデビュー以前に遡り、アニメ雑誌『ファンロード』でもその才能の一端を示していました。大学に在学していた1994年には、集英社が主催する「ホップ☆ステップ賞」の第109回（同年3月期）において、『鬼が来たりて』で入賞を果たし、これが漫画家としてのデビューとなりました。このデビュー作は、同年発行された『ジャンプ』オータムスペシャルに掲載されたほか、「ホップ★ステップ賞SELECTION」第15巻にも収録され、単行本に収められる際には「鬼部の章」という副題が付されました。また、同じ1994年の『ジャンプ』ウィンタースペシャルには、『鬼が来たりて 百鬼の章』が掲載されています。

大学を卒業した後、彼は上京し、人気漫画家・和月伸宏氏のアシスタントチーム、通称「和月組」の一員として活動しました。この時期には、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-|るろうに剣心_-明治剣客浪漫譚-』の連載を支える重要な役割を担っています。アシスタント業に励む傍ら、自身の作品制作も続け、1995年に開催された「第2回黄金の女神像争奪ジャンプ新人海賊杯」では、『ジャンプ』38号に掲載された『鬼が来たりて 人鬼の章』で見事に優勝を飾りました。この優勝が決定打となり、翌1996年には念願の『週刊少年ジャンプ』本誌での連載がスタート。『鬼が来たりて』は、同年5・6合併号から18号にかけて読者の前に届けられました。

1996年には、『ジャンプ』30号に読み切り作品『疾風伝ハヤテ』を発表。さらに1998年には、新たな挑戦として推理漫画『少年探偵Q』（原作：円陣氏）の連載を『ジャンプ』11号から開始しましたが、残念ながら同年26号で連載を終えることとなりました。

『ジャンプ』本誌での連載終了後も、漫画家としての活動は止まりませんでした。2000年には『赤マルジャンプ』誌上に、読み切り作品として「リィンCARNATION」（2000 WINTER掲載）と「SOLAR POWER」（2000 SUMMER掲載）を、いずれもセンターカラー付きで発表しています。また、集英社のライトノベルレーベルであるジャンプ ジェイ ブックスから刊行された、城崎火也氏によるホラー小説『三番目の転校生』（2000年10月発売）と『禁じられた鏡』（2001年12月発売）では、作品世界を彩る挿絵を担当しました。

しかし、順調に見えた活動の最中、2002年5月26日、彼は29歳という若さで急逝しました。死因は、過度なストレスが引き起こしたとされる拒食症による心不全と伝えられています。彼の墓所は、生まれ育った故郷、山形県鶴岡市にあります。

主な作品としては、

連載
『鬼が来たりて』（週刊少年ジャンプ、全2巻）
『少年探偵Q』（原作：円陣、週刊少年ジャンプ、全2巻）
読み切り
『疾風伝ハヤテ』（週刊少年ジャンプ）
『リィンCARNATION』（赤マルジャンプ）
『SOLAR POWER』（赤マルジャンプ）
挿絵
『三番目の転校生』（原作：城崎火也）
『禁じられた鏡』（原作：城崎火也）

しんが氏の突然の訃報を受け、漫画業界では深い悲しみが広がりました。彼が亡くなった直後に発売された『週刊少年ジャンプ』の巻末コメント欄では、同じく和月組の仲間であった尾田栄一郎氏、武井宏之氏、鈴木信也氏、そしてかつて彼のアシスタントを務めた松井勝法氏（旧名キユ）が、追悼のメッセージを寄せています。また、和月伸宏氏自身も、当時連載を持っていなかったため直後のコメントは叶いませんでしたが、翌年のお盆明けに、名前こそ挙げなかったものの、墓参りの報告と共に故人を偲ぶ追悼の言葉を綴っています。

親交の深かった尾田栄一郎氏は、自身の代表作『ONE PIECE|ONE_PIECE』の単行本第25巻において、特別な形でしんが氏への追悼の意を表しています。同単行本に収録された第233話の扉絵は、通常白く描かれる縁が黒く塗りつぶされており、これがしんがぎん氏への追悼を込めたデザインであったことを明かしています。

また、しんが氏が挿絵を担当していた城崎火也氏の「明華学園シリーズ」の挿絵は、彼の逝去に伴い、三好直人氏へと引き継がれることとなりました。

彼の人物像や交流を示す逸話も残されています。『鬼が来たりて』の連載が始まった当時、地元である山形県から週刊少年ジャンプの連載作家が誕生したことは大きな話題となり、山形放送からテレビとラジオ双方で取材を受けたことがありました。そのテレビ取材の際、女性リポーターから「いつか自分の作品に登場させてほしい」というリクエストを受け、しんが氏は快く応じたといいます。そして、その2年後に連載が始まった『少年探偵Q』の第1話で、この約束を見事に果たしています。さらに、和月組の面々に対しては、毎年しんが氏の実家からさくらんぼが贈られていたというエピソードがあります。興味深いことに、しんが氏の実家は農家ではなかったそうです。このさくらんぼのエピソードは、彼がいかに和月組の仲間たちと親密な関係を築いていたかを示すものと言えるでしょう。

短い期間ではありましたが、しんがぎん氏はその独特な世界観と才能で、『週刊少年ジャンプ』を中心に確かな足跡を残しました。早すぎる別れは多くの人々に惜しまれましたが、彼の描いた作品や、彼を取り巻く人々との温かい交流の記憶は、今もなお語り継がれています。

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