すべてをあなたに (映画)

すべてをあなたに

1996年に製作されたアメリカ映画『すべてをあなたに』（原題：That Thing You Do!）は、俳優として成功を収めていたトム・ハンクスが長年温めてきた企画を自身の手で実現させた、初の監督作品です。彼は脚本、製作も兼任し、作中には出演もしています。

この作品は、1960年代のアメリカを舞台にした青春音楽映画です。当時の音楽シーンを席巻したビートルズのような世界的スターを夢見た、ペンシルベニア州の田舎町出身の無名な若者たちが結成したバンド「ワンダーズ」の、短くも鮮烈な成功とその終焉までが描かれています。バンドメンバーたちの友情や葛藤、そして時代の波に翻弄される姿を、活き活きとした音楽と共に綴っています。

主要なキャストには、バンドのドラマーである主人公ガイ・パターソンをトム・エヴェレット・スコットが演じ、彼らの活動を支えるガールフレンドのフェイ・ドーランをリヴ・タイラーが演じています。また、ソングライターで作詞作曲を手掛けるジミー役にはジョナサン・シェック、リードギターのレニー役にはスティーヴ・ザーン、そしてベースプレイヤー役にイーサン・エンブリーが配されました。

監督であるトム・ハンクス自身は、ワンダーズをメジャーへと導く敏腕プロデューサー、ミスター・ホワイトとして出演。さらに、当時はまだ無名だったシャーリーズ・セロンが主人公の恋人役で顔を見せているほか、ハンクスの妻であるリタ・ウィルソンや、息子のコリン・ハンクスも短いながらも印象的な役で出演しており、製作陣とキャストの繋がりの深さも本作の魅力の一つです。

劇中音楽

本作のために書き下ろされたオリジナル楽曲が多数使用されており、1960年代のサウンドを忠実に再現しています。トム・ハンクス自身も劇中歌の作詞作曲に参加するなど、音楽へのこだわりが随所に見られます。

中でも、バンドの運命を大きく変えることになる主題歌「That Thing You Do!」は、作品を象徴する楽曲としてアカデミー主題歌賞にノミネートされるほどの評価を得ました。この楽曲は、映画公開後も多くのミュージシャンに愛されており、ヒット曲「マイ・シャローナ」で知られるザ・ナックや、日本のSHAKALABBITSなどが公式にカバーをリリースしています。また、イン・シンクやペンタトニックスといった人気アーティストもライブステージで披露するなど、時代を超えて親しまれています。

ストーリーの展開

物語は1964年、ペンシルベニア州の片田舎から始まります。電気店の手伝いをしながら、ジャズドラムを叩くことに無上の喜びを感じていた青年ガイは、地元の大学コンテストに出場する友人バンド「ワンダーズ」の急な穴埋めドラマーとして参加することになります。

バンドのオリジナル曲は穏やかなバラードでしたが、コンテストの本番でガイが突発的に叩き始めたハイテンポなリズムが観客に大受けし、バンドは予想外の優勝を果たします。この一曲の成功が、ワンダーズのシンデレラストーリーの幕開けとなります。

地元のライブハウスでの演奏機会を得て人気が高まったワンダーズは、自主製作したレコードをきっかけに、ベテランマネージャーのホレスと契約。彼の尽力でラジオでのオンエアやロックイベントへの出演を経て、ついにメジャーレーベル、プレイトーンレコード会社のプロデューサー、ミスター・ホワイトと出会います。

ホワイトに見出されたワンダーズは、メジャーデビューとプレイトーン所属アーティストとの全米ツアーへの参加が決定。ホワイトはバンド名を「The Wonders」に変更させ、ステージングや衣装、イメージ戦略などを徹底的にプロデュースします。この巧みな戦略により、ワンダーズの人気は爆発的に上昇し、デビューシングルは全米チャートでトップ10入りを果たす大成功を収めます。

合同ツアーから離れ、単独での活動を開始したワンダーズは、映画出演やラジオゲストなど順風満帆な日々を送ります。しかし、バンドの中心であるソングライターのジミーは、ライブ漬けの日々で次のアルバム制作が進まないことに強い不満を募らせます。レーベルのパーティーで会長に直談判を試みるも冷たくあしらわれ、会社に都合の良い「商品」として見られている現実を痛感します。

この頃から、メンバーの心は少しずつ離れ始めます。全米テレビ出演という絶頂期を迎える一方で、兵役を控えていたベースプレイヤーは突如姿を消し、ジミーと彼の恋人でありバンドを支えていたフェイの関係も崩壊。モテたい一心でバンドを始めたレニーは、できた恋人との時間を優先するようになります。

新作アルバムのレコーディングが始まりますが、芸術性を追求したいジミーと、売れるフォーマットにこだわるホワイトの間で方針が激しく対立します。自身の音楽性を否定されたと感じたジミーは、スタジオで「辞める」と宣言し、バンドから離脱します。これは事実上、ワンダーズの解散を意味しました。

突然の解散に打ちひしがれるガイでしたが、偶然出会った憧れのジャズドラマー、デル・パクストンとの交流を通じて、自身の音楽への向き合い方を見つめ直します。そして、故郷へ帰ろうとするフェイへの愛に気づき、彼女と共に新たな一歩を踏み出す決意を固めるのでした。

エピソード

日本では、出演者がテレビ番組『THE夜もヒッパレ』に生出演し、劇中歌やビートルズのカバーを披露するなど、ユニークなプロモーションが行われました。

また、公開から24年後の2020年、コロナ禍中にキャストたちがリモートで集まり、チャリティー目的のフリートークを配信。映画の上映時間とほぼ同じ約1時間50分にわたる配信の最後には、作品に数多くの楽曲を提供したアダム・シュレシンジャーが新型コロナウイルスの合併症で亡くなったことに触れ、彼を追悼しました。この配信には、トム・ハンクスの息子コリンや、作中でチャドを演じたジョヴァンニ・リビシらも参加しています。

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