せきれい丸沈没事故

せきれい丸沈没事故の概要

1945年12月9日、瀬戸内海東端に位置する明石海峡で、播淡連絡汽船「せきれい丸」が転覆沈没する海難事故が発生しました。この事故は、終戦直後の混乱期における安全管理の甘さと、過剰な乗船者数が重なり、304名もの死者・行方不明者を出すという悲劇となりました。

事故当日、明石海峡は晴天でしたが、台風並みの突風が吹き荒れるという異常な気象状況でした。当時、船舶の運航権限は船長に一任されており、「せきれい丸」の船長も当初は欠航を予定していました。しかし、淡路島から明石や京阪神方面の闇市へ買い出しに向かう人々や、生鮮品の行商人が多数集まり、出航を強く求める声に応じ、岩屋港を出港しました。

「せきれい丸」は、総トン数34トン、長さ19メートル、幅4メートルの木造船で、定員は100名でした。しかし、当日は乗組員5名に加え、定員の3倍以上となる344名の乗客が乗船していました。これは、戦後の混乱期における人々の生活苦と、安全意識の欠如を示すものでした。

午前9時頃、松帆崎沖1.5キロメートルの地点で、西からの突風を受け、寒風と波を避けるため乗客が右舷に集中しました。その結果、船は大きく傾き、激しい潮流と波に翻弄され、遂には転覆沈没してしまいました。付近で操業していた漁船が救助活動を行い、45名が救助されましたが、304名もの尊い命が失われるという大惨事となりました。船長は、救助を拒否し、船と運命を共にしました。確認された遺体は17名のみで、残る287名は現在も行方不明のままです。

この事故は、第二次世界大戦終結からわずか3ヶ月後に発生しました。当時は、戦前の古い船舶をそのまま使用し、定員を大幅に超える乗客を乗せることが常態化していました。この事故を契機に、瀬戸内海各地で旅客船の遭難が相次ぎ、本州四国連絡橋架橋運動が活発化しました。明石海峡では以前から架橋構想がありましたが、この事故を契機に、神戸市長や淡路島出身の国会議員らの尽力により、半世紀後、明石海峡大橋が架橋されるに至りました。

1987年、明石海峡大橋の工事開始を機に、海上安全を祈念し、淡路市岩屋の鳥ノ山展望台に慰霊碑が建立されました。慰霊碑には、「当時は戦後の混乱期で十分な供養もなされないまま今日に至ったが、このたび明石海峡の架橋工事（が）始まるのを契機に、犠牲者の慰霊とともに平和と海上安全の願いを込めて、この塔を建立した」と刻まれています。

参考文献

『「せきれい丸」慰霊碑をもっと美しく』神戸新聞社、2008年12月29日。
『淡路島のみなとの歴史』兵庫県港湾協会 2014年5月発行。

関連項目

紫雲丸事故
第十東予丸沈没事故

これらの海難事故も、本州四国連絡橋架橋運動が盛んになるきっかけとなりました。

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