そう根病

テンサイそう根病

テンサイそう根病（てんさいそうこんびょう）は、砂糖の原料となる甜菜（テンサイ）に被害をもたらす重要な病害です。この病気は、Beet necrotic yellow vein virus（BNYVV）というウイルスが原因で発生します。BNYVVは、Polymyxa betaeという、いわゆるカビに近い変形菌類によって運ばれ、土壌を介してテンサイの根に感染します。土壌中で長期間生存できるため、一度発生すると対策が非常に難しくなります。

この病害は世界中の主要なテンサイ生産地で確認されており、日本を含むヨーロッパ、アメリカ、中国など広範囲に分布しています。多くの地域でテンサイ栽培における最重要病害の一つと位置づけられています。日本国内でも、テンサイが栽培されている畑のおよそ20パーセントがBNYVVに汚染されているとの報告もあり、農業生産に与える影響は深刻です。

病徴

テンサイがそう根病に感染すると、様々な症状が現れます。初期段階では、晴天の日の日中に葉がしおれ、夜間には元に戻るという一時的な萎れが見られることがあります。病気が進行すると、葉全体が鮮やかな黄色に変色し、葉の形も細長く立ち上がるようになるのが特徴です。病状がさらに重篤化すると、葉脈が黄色くなるなど、マグネシウムやカリウムなどの養分が欠乏した時と似た症状を併発することもあります。

根部では、主根や側根から細い根が異常に多数密生して生える叢根（そうこん）と呼ばれる状態になります。正常なテンサイの根は大きく肥大して糖分を蓄積しますが、病気にかかるとこの肥大が阻害されます。根の内部、特に維管束の部分が茶色く変色します。重症の場合、根の組織が硬くコルク状になり、最終的には腐敗してしまうこともあります。たとえ病状が比較的軽い場合でも、根の中に含まれる糖分の量が減少するため、収穫される甜菜の品質や収量に大きな打撃を与えます。

発病条件

テンサイそう根病は特定の条件で発生しやすくなります。土壌のpHが高い、具体的にはpH7.0以上のアルカリ性の土壌では病気が発生しやすい傾向があります。同じ畑で連続してテンサイを栽培する連作や、テンサイを短い間隔で繰り返し植える短期輪作を行うと、土壌中にBNYVVウイルスや媒介者であるPolymyxa betaeの密度が高まり、病気が発生しやすくなります。また、夏の高温多湿の環境も病気の発現を助長する要因となります。感染時期としては、テンサイの苗を育てる育苗時に苗床の土から感染する場合と、畑に植え付けた後に本圃の土壌から感染する場合の両方があります。

防除法

テンサイそう根病の被害を抑えるためには、様々な防除対策を組み合わせることが重要です。化学的な対策としては、D-D剤やダゾメット剤などの土壌消毒剤を使用し、土壌中のウイルスや媒介者の数を減らす方法があります。

耕種的な防除法も有効です。
土壌に石灰などを施用して土壌pHを低下させることで、病原菌の活動を抑制する試みがなされます。
テンサイ以外の作物を長期間栽培する長期輪作は、土壌中のウイルス密度を自然に減少させる効果が期待できます。
病気に対して抵抗性を持つ品種を選んで栽培することも、被害を軽減するための有効な手段です。
育苗段階での感染を防ぐために、苗床に使用する土を熱で消毒する方法も実践されています。
* 感染が確認された畑の土を他の畑に持ち運ばないなど、土壌の移動によるウイルスの拡散を防ぐことも重要な予防策です。

これらの防除法を適切に実施することで、テンサイそう根病の発生を抑え、安定したテンサイ生産を目指すことができます。

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