そば清

落語「そば清」と「蛇含草」

落語には、同じモチーフを扱いながらも、東西で異なる展開を見せる演目が存在します。「そば清（そばせい）」と「蛇含草（じゃがんそう）」もその一つです。

そば清

主に東京で演じられる「そば清」は、蕎麦の大食いを題材にした滑稽噺です。別名「蕎麦の羽織」「羽織の蕎麦」とも呼ばれます。

三代目桂三木助が「蛇含草」を大胆に改変し、蕎麦をテーマにした演目として作り上げました。主な演者には、他に10代目金原亭馬生、3代目古今亭志ん朝などがいます。

蛇含草

一方、「蛇含草」は上方落語を起源とする古典落語で、東西で演じられています。こちらは、餅の大食いを自慢する男と、不思議な薬草をめぐる物語です。

原話は、一休宗純の言行録とされる『一休関東咄』にある「大しょくばなしの事」とされています。しかし、作家の宇井無愁は、この話が日本各地に伝わる民話「とろかし草」と共通する要素を持つことを指摘しています。主な演者には、2代目桂枝雀、4代目三遊亭圓生、2代目桂小金治、2代目桂文朝などがいます。

あらすじ

蛇含草

夏の日に、男が友人の家を訪ねると、汚れた草が吊るされています。それは「蛇含草」と呼ばれる薬草で、大蛇が人間を丸呑みにした際に、腹の張りを鎮める効果があると言います。男は珍しがって譲り受けます。

その後、友人が餅を焼き始めます。男は焼けた餅を勝手に食べようとして注意されます。友人は、「許しを得てから食べるのが礼儀だ。それなら、箱の中の餅を全部食べても良い」と言います。男は面白がって、餅を曲芸のように食べ進めます。しかし、あと二つというところで力尽き、降参します。

男は家に帰って寝ますが、腹の苦しさは収まりません。そこで蛇含草を口にすると、なんと体が溶けてしまいます。蛇含草は、消化を助ける草ではなく、人間を溶かす草だったのです。

そば清

江戸の蕎麦屋で、見慣れぬ男が大量の蕎麦を食べる様子が話題になります。客たちは、男が20枚の蕎麦を食べられるか賭けをします。男は難なく20枚を食べきり、賭け金を得ます。

翌日、男は再び現れ、今度は30枚の蕎麦に挑戦し、これも完食します。常連客が、男は「そばっ食いの清兵衛」、通称「そば清」という大食いの名人だと教えます。

客たちはさらに50枚の大食いを持ちかけますが、清兵衛は自信がなくなり、蕎麦の本場・信州へと逃げ出します。

信州の山中で迷った清兵衛は、ウワバミが猟師を丸呑みにする場面を目撃します。ウワバミは、傍に生えていた草をなめると、腹が元通りに戻ります。清兵衛は、この草こそが「そばをいくらでも食べられる魔法の薬」だと考え、江戸へ持ち帰ります。

再び蕎麦屋を訪れた清兵衛は、今度は60枚の蕎麦に挑戦することを宣言します。50枚までは順調でしたが、苦しくなり休憩を申し出ます。そして、信州で手に入れた草を口にします。

障子を開けると、清兵衛の姿はなく、そこにいたのは羽織を着た蕎麦でした。例の草は、消化を助ける草ではなく、人間を溶かす草だったのです。

関連作品

これらの物語をモチーフにした作品も存在します。

テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』では、「とけてしもうて蕎麦団子」「とろかし草」といったエピソードが制作されています。
漫画家の魔夜峰央は、「蛇含草」を翻案した短編「パンドラキン」を執筆しており、蕎麦をスパゲッティに置き換えた物語が展開されています。

まとめ

「そば清」と「蛇含草」は、大食いと不思議な薬草を題材にした、滑稽でちょっぴり怖い落語です。それぞれの演目の背景やあらすじ、関連作品を知ることで、より深く落語の世界を楽しむことができるでしょう。

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