たたえられよ、サラエヴォ

『たたえられよ、サラエヴォ』：ゴダールの衝撃的な戦争への問いかけ

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1993年の短編ビデオ映画『たたえられよ、サラエヴォ』（原題：Je vous salue, Sarajevo）は、紛争下のサラエヴォを捉えた一枚の写真から着想を得た、わずか2分にも満たない力強い作品です。ロン・ハヴィヴとリュック・ドラエという二人の写真家による、衝撃的な一枚の写真。それは、サラエヴォの歩道に伏せる3人の市民を、銃を持った兵士たちが威嚇する様子を捉えたものです。兵士の一人は、煙草をくわえ、銃の銃身を市民に突きつける、暴力的な光景です。

ゴダールはこの写真に着目し、その細部を丹念に分析することで、文明と戦争、そして芸術と現実の複雑な関係を探求します。監督は、写真の断片をカメラのフレームに収めながら、自身のナレーションで分析を進めます。サラエヴォという都市に根付く文化、そしてその文化の中に存在する例外としての芸術。ゴダールは、この対比を浮き彫りにするために、フローベールとドストエフスキー、ガーシュウィンとモーツァルト、セザンヌとフェルメール、アントニオーニとヴィゴといった、異なる時代と文化の巨匠たちを引用します。

この手法は、ゴダールがかつて携わった『ジェーンへの手紙』（1972年）で見られた記号論的な映像分析と共通しており、一枚の写真から広がる複雑な意味を読み解こうとする姿勢が見て取れます。1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争への、ゴダールの迅速かつ強い反応が本作には表れています。これは単なる戦争記録映画ではなく、同じヨーロッパの芸術家としての、緊急性の高い声明とも解釈できます。

『たたえられよ、サラエヴォ』は、ゴダールの戦争と芸術に対する深い洞察を示すものです。わずか2分強の尺ながら、観る者に深い衝撃と問いかけを与え続ける、忘れ難い作品と言えるでしょう。音楽にはアルヴォ・ペルトの音楽が用いられており、映像の持つ緊張感をさらに高めています。ゴダール自身による撮影、編集、脚本、ナレーションと、ほぼ一人で制作された、その徹底的なまでのこだわりもまた、本作の特筆すべき点です。

2004年の作品『アワーミュージック』でもサラエヴォの問題を扱っているゴダールですが、『たたえられよ、サラエヴォ』は、その初期段階における、彼の強い意志と、紛争への深い関与を示す重要な作品と言えるでしょう。2006年には、ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルの短編集DVDに収録され、より広い範囲で鑑賞できるようになりました。この短編は、ゴダールのフィルモグラフィの中でも、特異な存在感を放ち続け、現代社会における芸術の役割、そして戦争と平和の問いかけを私たちに突きつけてきます。

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