つがる型巡視船

つがる型巡視船：日本の海洋警備を支えるヘリコプター搭載型巡視船

1970年代後半、日本の[排他的経済水域]の拡大に伴い、海上保安庁は広大な海域の警備・監視能力向上に直面しました。従来の巡視船では航続力や速度が不足しており、大型化も重量増加による悪循環を招く懸念がありました。そこで、ヘリコプターによる広域捜索能力に着目し、ヘリコプター搭載型大型巡視船の建造が決定。その結果生まれたのが、本記事で解説する「つがる型巡視船」です。

誕生の背景：EEZ拡大と警備力の強化

1974年の国連海洋法会議でEEZの概念が合意されると、日本も1977年に領海を12海里、漁業水域を200海里に拡大。これにより、海上保安庁の管轄海域は飛躍的に広がり、既存の装備では対応困難な状況となりました。大型船の建造は、速度低下や燃料消費の増加といった問題を引き起こす可能性があったため、ヘリコプター搭載型巡視船という革新的な解決策が採用されました。先行艦である「そうや」の設計を基に、ヘリコプターの搭載と運用を可能にする大型巡視船として「つがる型」は建造されました。

設計と建造：進化し続ける船体

「そうや」を基本設計とした「つがる型」ですが、建造期間が1979年から2001年と長く、各艦で設計・艤装に差異が見られます。耐航性向上のための船首シアの変更や、みずほ型巡視船の技術導入、重量軽減のための高張力鋼の使用など、建造期間中に様々な改良が加えられました。特に8番艦「りゅうきゅう」は船体線図を全面的に見直し、造波抵抗軽減のためのバルバス・バウや操船性能向上のための改良などが施された事実上の新型です。また、船体色は白色に黒文字の船名、濃紺の煙突という初期のデザインから、Sマークや英文船名表記の追加など、時代の変化を反映した変更も加えられました。

機関：航行性能の向上

主機関は、SEMT ピルスティク社製ディーゼルエンジンを2基搭載。7番艦「えちご」以降は出力強化とスクリュープロペラの改良が実施されました。ライセンス生産されたエンジンは、日本の技術力も反映したものです。操船性能向上のため、バウスラスターやシリング・ラダーも装備され、特に「りゅうきゅう」以降はバウスラスターの出力が強化されました。また、減揺装置として減揺タンクとフィンスタビライザーを装備し、安定した航行を実現しています。

装備：高度化する指揮・統制システム

指揮・統制システムであるOIC（Operation Information Center）室も、建造期間中に大きく進化しました。初期の艦では「そうや」の設計を踏襲していましたが、ヘリテレ装置の搭載や機関操縦機能の操舵室への統合など、情報収集・処理能力の向上が図られました。「りゅうきゅう」では、航海、機関、航空、通信の各部署を航海船橋甲板に集約し、総合配置型システムを導入。大型モニターによる全船内情報の集約・表示を実現しています。

兵装：時代の変化に対応した進化

兵装も建造時期によって変化しました。初期の艦はボフォース40mm機関砲とエリコン20mm機関砲を装備していましたが、後にエリコン35mm機関砲、JM61-M/RFS 20mm多砲身機関砲へと順次更新。遠隔操作式機関砲の導入など、省力化と戦闘能力の向上を図っています。

搭載艇と搭載機：多様な任務に対応

搭載艇は、作業艇、高速警備救難艇、救命艇など、任務に応じて構成が変化しています。「りゅうきゅう」以降は複合艇の追加もされています。搭載機は初期はベル212ヘリコプターでしたが、老朽化に伴いS-76C/Dへと更新され、格納庫やヘリコプター甲板にも改良が加えられました。ヘリコプターの格納庫への移動システムも改良が重ねられ、作業効率の向上に貢献しています。

延命・機能向上工事：更なる活躍

船齢30年を超えたPLHに対しては、延命・機能向上工事が実施されています。C4ISR機能強化、航空運用機能強化、電気系統強化などが行われ、15年程度の運用延長が見込まれています。

登場作品：フィクションの世界でも活躍

「つがる型」は、映画『海猿シリーズ』や漫画『BUGS LAND 〜箱船のトリトン〜』、小説『東シナ海開戦』など、数々のフィクション作品に登場し、その存在感を示しています。

まとめ

「つがる型巡視船」は、日本のEEZ拡大という歴史的背景の中で誕生し、建造期間中にも様々な改良が重ねられてきた、日本の海洋警備を支える重要な存在です。その進化の歴史は、日本の海洋安全保障の取り組みを象徴するものです。

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