とぎ汁

とぎ汁（とぎじる）

とぎ汁とは、私たちが日常的に米を研ぐ作業を行った際に生じる、白濁した液体のことを指します。

成分と性質

この白濁した液体の正体は、主に米の外層部分であるヌカです。精米の過程で完全に取り除かれなかったヌカが、米を水で研ぐ際に洗い流されることでとぎ汁となります。米一合あたり、およそ大さじ一杯分のヌカが含まれていると言われています。

とぎ汁には、ヌカ由来の様々な成分が含まれています。具体的には、炭水化物、油分、タンパク質のほか、ビタミンB群やリン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛といったミネラル類などが挙げられます。

多様な利用法

とぎ汁は古くから、その性質を利用して生活の中で役立てられてきました。例えば、古代中国（周代）では「藩（はん、しろみず）」と呼ばれ、洗顔に用いられていた記録があります。日本においても、洗濯に利用されたり、髪を梳る際に使う「泔（ゆする）」として活用されたりするなど、洗浄や身だしなみに使われてきました。現代の合成界面活性剤ほど強力ではないものの、単なる水と比較すれば十分な洗浄力があるという報告も存在します。

また、とぎ汁に含まれる豊富な栄養素に着目し、家庭菜園などで植物の肥料として用いることも可能です。ただし、植物がすぐに吸収できない有機物（炭水化物、油分、タンパク質など）が含まれているため、これらが原因となってカビや細菌が増殖し、異臭を放ったり根腐れを引き起こしたりする可能性もある点に注意が必要です。

その他にも、調理の下ごしらえに利用されることがあります。例えば、タケノコのえぐみを取り除くための灰汁抜きや、ダイコンの辛味を和らげる際などに効果を発揮します。

環境問題としての側面と新たな可能性

一方で、とぎ汁は環境問題との関連も指摘されています。日本全国で一日あたりに出されるとぎ汁の総量は、推定で24トンから32トンにも達すると言われています。この大量のとぎ汁が、もし適切な処理をせずにそのまま河川などに流された場合、水質を汚染し、富栄養化を引き起こす原因となる可能性が指摘されています。試算によれば、とぎ汁約200mlを魚が生息できる水質（BODが5mg/L程度）にするためには、約90リットルの水を加えて希釈する必要があると言われています。ただし、これは下水処理施設を経由せずに直接排水した場合の問題であり、下水処理設備が整った都市部では、このような直接的な汚染は緩和されると考えられます。

近年、とぎ汁に含まれるでんぷんに注目し、これをバイオ燃料として活用する研究や取り組みが始まっています。この技術が実用化され、採算に乗せることができれば、様々なメリットが期待されます。例えば、各家庭が無洗米を選択する動機付けとなり、結果として河川汚染や地球温暖化といった環境破壊の防止に貢献できる可能性があります。家庭から個別にとぎ汁を回収するのは困難ですが、無洗米の工場から一括して回収することは比較的容易であるという側面もあります。さらに、工場での排水処理にかかる燃料消費を削減できるだけでなく、とぎ汁が原料として収入を生むことで、無洗米をさらに安価に提供できるようになる可能性も秘めています。下水処理施設の負荷軽減も期待されるため、自治体による積極的な促進政策も視野に入ってきます。

なお、近年、一部でとぎ汁の特定の利用法に関して、根拠のない健康効果や放射能除去効果などが喧伝されることがありますが、これらは科学的に証明されていないデマであるため、情報には十分な注意が必要です。

関連項目

米
無洗米
ヌカ
水質汚濁
* 米糠発酵物#米糠発酵液・米のとぎ汁発酵物が放射能を除去するというデマについて

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