ナメコ

ナメコ（滑子）

ナメコ（滑子、学名: Pholiota microspora）は、モエギタケ科スギタケ属に属する中型のキノコの一種です。食用キノコとして広く親しまれており、その滑らかな舌触りと独特の風味が人気を集めています。日本や台湾などの地域に分布し、秋になるとブナやナラなどの広葉樹の枯れ木や切り株に群生します。特徴的なのは、湿った状態の時に分泌されるゼラチン質の粘性物質（ムチレージ）で、これにより全体がぬめりで覆われています。地域によっては、ナメタケやヌメリタケとも呼ばれています。

名称の由来

和名である「ナメコ」は、その名の通り、キノコ全体が粘液で覆われており、ぬるぬるとした滑らかな感触から「滑らっ子」が転じたものとされています。また、地域によって様々な呼び名があり、ナメタケ、ナメラッコ、ヌイド、ヌラボコなどとも呼ばれています。

学名については、1929年に伊藤篤太郎によって、日本語の「なめこ」を基に Collybia nameko と命名されました。その後、属の分類が見直され Pholiota nameko (T.Ito) S.Ito & Imai が広く使用されていましたが、2008年に、1850年に Agaricus microsporus として記載されていたヒマラヤ産の Pholiota microspora (Berk.) Sacc. と同一種であると結論付けられ、現在では Pholiota microspora が正式な学名として用いられています。

生態

ナメコは、日本のブナ林や台湾の高地に分布しており、ブナと共に進化したと考えられています。関東地方以西の平地にはブナ林が少ないため、ナメコを見かけることは稀です。一方、日本海側ではコナラの枯れ木に発生することがよくあります。

ナメコは木材腐朽菌であり、枯れた広葉樹を栄養源としています。中秋から晩秋にかけて、ブナ、ナラ、コナラ、ミズナラなどの枯れ木や切り株、立ち枯れた木などに単独または群生します。特にブナの倒木に多く見られます。また、冷涼な源流域の水辺では、初夏から発生することもあります。湿気を好む性質があり、苔むした倒木や川辺の倒木などで見つけることができます。

形態

傘の直径は3〜10cm程度で、最初は半円形をしていますが、成長するにつれて平らに開きます。傘の表面は茶褐色から淡褐色で、ゼラチン質の粘液で覆われています。肉は黄色がかった白色をしています。

ヒダは細かく密に並んでおり、最初は淡黄色をしていますが、次第に淡褐色に変化します。若い個体では、ヒダがゼラチン質の膜で覆われています。

柄の長さは5〜8cm程度で、太さは上下でほぼ均一です。内部は中空ではなく、詰まっています。柄の上部はゼラチン質のツバ（つば）より上が白色、ツバより下は傘と同様の粘液で覆われています。乾燥すると、ナメコの特徴である粘性が失われることがあります。

食用

ナメコは食用キノコとして人気があり、独特のぬめりと風味、そして歯切れの良さが特徴です。旬は9月から11月頃で、市販されている栽培品は、粒が揃っていて艶があり、傘が肉厚なものが良品とされています。特に、小指の頭ほどの大きさのものが高級品として扱われます。天然物は栽培品に比べて大型で肉厚であり、香りも味もより強いとされています。

ナメコは、味噌汁や蕎麦の具、鍋物など、様々な料理に利用されます。さっと湯通ししてから大根おろし和えや山芋と混ぜた和え物など、さっぱりとした料理にも適しています。傘が開いていない小さなものは、全体を覆っているゼリー状のぬめりによって、和え物や汁物にした際にツルツルとした喉越しを楽しむことができます。傘が開いた大きなものを炭火で焼くと、肉厚でより一層美味しくいただけます。ナメコのぬめりは、食物繊維の一種であるムチレージという成分によるもので、タンパク質の吸収を助け、胃粘膜を保護する働きがあると言われています。

市販のナメコは、100g程度に小分けされたものが主流です。多くは傘が1〜2cm程度の幼菌ですが、大きく育てた成菌は傘が直径3〜4cmにもなり、ぬめりは少なめですが、小さいものよりも歯ごたえがあります。野生のナメコは香りが強く、大きさも栽培品よりも大きいのが特徴です。調理する際は、表面に汚れが付いていることがあるため、軽く水洗いするか、湯をかけて表面のぬめりと一緒に洗い流してから使用します。ただし、ぬめりを洗い流しすぎると風味や栄養分が損なわれる可能性があるため、注意が必要です。ナメコは傷みやすいため、その日に食べきれない場合は、軽く湯通しして冷凍保存すると良いでしょう。

栽培と流通

ナメコは、おがくずや丸太を用いた栽培が盛んに行われており、一年を通して市場に出回っています。現在では、市場に流通しているナメコの99%が菌床栽培品です。家庭でも比較的容易に栽培できます。

栽培方法には、主に原木栽培とおがくず菌床栽培の2種類があります。

原木栽培: 広葉樹の原木に種菌を接種し、自然に近い環境で栽培する方法です。時間と手間がかかりますが、より自然に近い風味のナメコを収穫できます。
菌床栽培: 広葉樹のおがくずなどに栄養剤を混ぜた菌床に種菌を接種し、温度や湿度を管理した室内で栽培する方法です。短期間で大量に生産できるため、市場に流通しているナメコのほとんどがこの方法で栽培されています。

類似種との判別

ナメコと似た外観を持つキノコがいくつか存在するため、注意が必要です。特に、倒木や切り株に群生する褐色の傘を持つキノコとの判別は重要です。

ヌメリスギタケ、ヌメリスギタケモドキ: いずれも傘の色がナメコよりも黄色味を帯びています。また、ナメコの傘の鱗片は幼菌時にしか見られませんが、これらの種は成長しても鱗片が残ります。
ナラタケ類: 傘の中央部に鱗片状の突起があること、傘に吸水性がないことが特徴です。また、ナラタケ類の柄は折るとボキボキと音がします。
エノキタケ: 柄にツバがなく、下に行くほど色が濃くなります。傘に鱗片はありません。
クリタケ、ニガクリタケ: 傘が赤褐色で鱗片はありません。ニガクリタケはクリタケよりも苦味が強く、齧ると強い苦味を感じます。
ケコガサタケ属菌: 全体的にナメコよりも小さく、傘に鱗片はありません。乾燥時に傘の中央部が淡色になる種があります。この仲間には猛毒のアマトキシン類を含むものが知られています。
センボンイチメガサ: 全体的に小さく、傘に吸水性がありますが、鱗片はありません。かなり腐朽が進んだ朽木に群生します。

その他

ナメコは、スマートフォン用ゲーム『おさわり探偵 なめこ栽培キット』のテーマにもなっています。

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