にがい米

『にがい米』（イタリア語原題：Riso amaro）は、1949年にイタリアで製作・公開されたジュゼッペ・デ・サンティス監督による映画です。イタリア映画の重要な潮流であるネオレアリズモの代表的な作品の一つとして知られています。舞台は1948年5月、ポー川流域、ピエモンテ州ヴェルチェッリ県の水田地帯。この地域では、稲作の季節になると多くの女性たちが田植え労働者として集団で働いていました。

物語は、高級ネックレスを盗み出した窃盗犯であるフランチェスカとウォルターの二人組が、警察の追跡を逃れるため、この女性田植え労働者の集団に紛れ込むところから始まります。水田地帯へ向かう列車の中で、フランチェスカは労働者の一人であるシルヴァーナと出会い、行動を共にすることになります。シルヴァーナはフランチェスカに、約40日間に及ぶ過酷な農場での生活について語ります。しかし、フランチェスカは正規の労働許可証を持たない「不法労働者」であったため、働く場所を見つけるのに苦労しますが、人手不足のため、やがて他の不法労働者たちと共に作業に加わることを許されます。

水田での重労働が続く中、労働者たちは兵舎を転用した簡素な宿舎で寝泊まりし、米を主とした質素な食事をとります。過酷な環境下では、労働者グループ間の対立や小競り合いが起こる様子も描かれます。また、田植え作業中に、間もなく兵役を終える軍曹のマルコが登場します。マルコは個性的な魅力を持つシルヴァーナに惹かれますが、彼女の心はなかなか開きません。

物語は、ある夜のダンスパーティのシーンで印象的な展開を見せます。レコードプレーヤーを持ち込んだシルヴァーナが、解放的な雰囲気の中で妖艶に踊り、周囲の男たちの視線を集めます。彼女の自由奔放さと、その中に秘められた危うさが浮き彫りになる場面です。

稲作の季節が終盤に差し掛かった頃、ウォルターが再び水田地帯に姿を現します。彼はかねてから一部の男たちが企てていた、大量の米の窃盗計画に加わるためでした。シルヴァーナは、ウォルターの持つ危険な魅力や犯罪者としての生き方に強く惹かれるようになり、彼の計画に深く関わっていきます。季節労働の最終日前夜に開かれた祭りの最中、ウォルターらの窃盗が決行されます。シルヴァーナは窃盗団を助けるため、人々の注意を逸らすべく水田の畔を壊す行動に出ます。

しかし、フランチェスカとマルコはウォルターらの計画を阻止しようと立ちはだかります。対峙するフランチェスカとシルヴァーナ。お互いにウォルターやマルコが持つ銃を手に取ります。フランチェスカはシルヴァーナに対し、自身もまたウォルターに利用されていたに過ぎない事実を打ち明けます。真実を知ったシルヴァーナは、ウォルターに銃口を向け、引き金を引いて彼を殺害します。その直後、激しい罪悪感に苛まれたシルヴァーナは、祭りの櫓の頂上から身を投げて自ら命を絶つという悲劇的な結末を迎えます。

翌日、故郷へ帰る労働者たちは、その季節の労働の報酬として受け取った米の袋から米を取り出し、シルヴァーナの亡骸に降り注いで彼女の死を悼みます。このラストシーンは、過酷な労働と悲劇の中で散った若い命への、ささやかながらも心からの追悼として描かれています。

この映画は、戦後イタリアの社会情勢を背景に、貧困や不平等、搾取といった現実を描きつつ、登場人物たちの欲望、裏切り、愛憎が絡み合った人間ドラマとしても評価されています。1956年には『水田地帯』（La Risaia）という題名でリメイクもされています。

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