にっぽん親不孝時代

1968年夏に公開された映画『にっぽん親不孝時代』は、当時の人気グループサウンズ、ザ・スパイダースが主演を務めた青春ドラマです。本作はザ・スパイダースにとって、グループとしてスクリーンに登場する最後の主演作品となりました。また、出演者の一人である堺駿二氏は、本作の公開直前の1968年8月10日に急逝しており、本作が彼の遺作となったことでも知られています。堺駿二氏は主演の堺正章氏の実父であり、劇中でも親子役を演じています。

この映画は、脚本家の松山善三氏の原作を基に、当時新人だった山本邦彦氏が脚色と監督を手がけました。山本氏にとってこれが記念すべき初監督作品となります。撮影は黒田徳三氏が担当し、瑞々しい青春群像を捉えています。

物語は、楽器を手に入れてバンドを組むことを夢見る4人の若者、杉本邦雄（堺正章）、光妙寺六郎（井上順）、戸田菊男（井上孝之）、弓岡実（加藤充）を中心に展開します。彼らは楽器購入のために資金が必要となり、邦雄は大胆にも父・杉本満（藤村有弘）の会社の金庫を破る計画を立てます。しかし、父の秘書である谷口加奈子（星由里子）が邦雄を助け、「自分の家の金庫を壊しても泥棒ではない」という理屈で彼をサポートします。無事楽器を手に入れた5人（邦雄たち4人に、音楽好きの仲間として一の瀬昭（大野克夫）が加わったと推測されます）は、音楽活動に熱中します。

その頃、彼らが暮らす町では大きな騒動が持ち上がっていました。邦雄の父である実業家の杉本満が、かつて学校を建設すると約束して購入した土地に、デパートを建設しようと計画したのです。これに対し、六郎の父である光妙寺法念（堺駿二）をはじめとする地元住民は猛烈な反対運動を展開します。しかし杉本は町の発展のためと主張し、外資導入を推し進めようとします。しかし、この「外資」の正体は、彼が部下を使って海外から密かに持ち込もうとしていた1億という巨額のヤミドルだったのです。横浜港に停泊する外国船からジョージ（佐原健二）とその部下たちがヤミドルを陸揚げする様子を、たまたま腹を空かせたフーテンの哲（ムッシュかまやつ）と一彦（田辺昭知）が見かけます。食料の入ったスーツケースと勘違いした二人は、ヤミドル入りのケースを持ち去って逃走します。

杉本は部下の失態を激しく叱責しますが、その様子を秘書の加奈子が小型カメラで隠し撮りしていました。加奈子は単なる秘書ではない、何らかの意図を持って杉本に近づいていたことが示唆されます。一方、ヤミドルを持って逃げた哲と一彦は光妙寺に逃げ込み、そこで邦雄たちと出会います。もともと音楽を愛する者同士、彼らもすぐに意気投合し、ここにザ・スパイダースのメンバー全員が揃った7人組が誕生します。ヤミドルが絡んだ事件の全貌を知った7人は、密輸組織との対決を決意。いくつかの騒動を経て、最終的に密輸組織は警察によって検挙され、町にはようやく平和が訪れます。

事件解決後、自由な生き方を求めて、楽器を抱えた7人は上野駅から旅立ちます。邦雄は密かに心惹かれていた加奈子が駅に見送りに来ることを期待しますが、彼女の姿はありませんでした。列車が発車した後、高架の上からその列車を見送る婦人警官の姿がありました。それが、制服に身を包んだ加奈子だったのです。

キャストには、ザ・スパイダースの全メンバーが勢揃いし、それぞれの個性を生かした役柄を演じています。星由里子がヒロインの加奈子を演じ、謎めいた魅力を放ちます。ベテラン俳優の藤村有弘が拝金主義の父親役を、そして遺作となった堺駿二氏が温厚な寺の住職役を好演し、若者たちの物語に深みを与えています。佐原健二が悪役の一人を演じています。

スタッフとしては、池野成氏が音楽を手がけ、映画の雰囲気を盛り上げています。劇中では、ザ・スパイダースの代表曲「バンバンバン」をはじめ、「フリフリ」「恋のドクター」「友を呼ぶ歌」「夜明けの世界」、そして主題歌「親不孝で行こう」（音源未発売）など、彼らのヒット曲や書き下ろし曲が多数使用されており、サウンドトラックとしても楽しめる作品となっています。

『にっぽん親不孝時代』は、当時の若者の夢や親子の葛藤、そして社会の歪みを背景にした事件を、ザ・スパイダースの魅力的なパフォーマンスと音楽に乗せて描いた青春映画です。グループの集大成ともいえる本作は、彼らのファンにとってはもちろん、当時の世相を知る上でも興味深い一作と言えるでしょう。同時上映は『お熱い休暇』でした。

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