池野成

池野成は、1931年に北海道札幌市で生まれ、2004年に東京都で亡くなった日本の作曲家です。東京芸術大学と東京音楽大学で教鞭を執り、後進の育成にも尽力しました。

生い立ちと音楽への道

池野の家系は、曽祖父が堺奉行、祖父が植物学者という由緒あるものでした。幼少期を札幌で過ごした後、東京音楽学校（現東京藝術大学音楽学部）で作曲を学び、池内友次郎や伊福部昭に師事しました。特に伊福部昭からは大きな影響を受け、彼の音楽に対する姿勢や民族音楽への探求心を受け継ぎました。

映画音楽での活躍

1954年には、映画『ゴジラ』で伊福部昭のアシスタントを務め、映画音楽の世界に入りました。その後、1956年の映画『稼ぐ日』で初めて単独で映画音楽を手がけ、1960年代には数多くの映画音楽を担当しました。特に、時代劇映画『座頭市』シリーズの音楽は、彼の代表作として知られています。手がけた映画音楽は150本近くに及び、日本の映画音楽界に大きな足跡を残しました。

純音楽作品への情熱

映画音楽での活躍とは対照的に、池野は演奏会用の純音楽作品については寡作でした。しかし、その作品は、彼の音楽に対する深い探求心と実験精神を示すものでした。オーケストレーションに独自の工夫を凝らし、民族音楽の要素を取り入れながら、近代オーケストラの可能性を追求しました。特に、マリンバ、トロンボーン、パーカッションのための「エヴォケイション」や、ティンパニをフィーチャーした「ティンパナータ」、ヴァイオリン協奏曲「ラプソディア・コンチェルタンテ」は、彼の音楽観を象徴する作品として知られています。

古代主義と民族音楽への探求

池野の音楽は、古代主義と称されるように、伝承されたアジア・アフリカの民族音楽の生命力を希求していました。チベットや日本の仏教音楽、能楽、ルワンダ・フトゥ族などのアフリカ音楽の研究に基づいて、独自の音組織を構築しました。民族音楽学者、小泉文夫の核音の理論を参考に、調性音楽の中にオリジナリティを追求しました。また、旋律にはフリギア旋法への志向が見られ、仏教聲明や能楽の影響も感じられます。楽曲構成は、ロンド形式を基調としながら、対比を巧みに用いて、多彩な和声と変拍子、ポリリズムを組み合わせることで、聴衆を熱狂させるような緻密な構成を持っていました。作曲の弟子には、エドガー・アラン・ポーの詩論『構成の原理』を推奨していたと伝えられています。

作曲への執念と人柄

池野は、普段は温厚な人柄でしたが、作曲に対する情熱は非常に激しいものでした。自作について「死物狂いで全力をつくした」と語っており、特に「ラプソディア・コンチェルタンテ」作曲中は、4年間映画音楽の仕事を断り、生活に困窮しながら研鑽を続けたというエピソードが残されています。この厳格な作曲姿勢は、師である伊福部昭の非西欧中心主義的な文化観や、山本常朝の『葉隠』の影響を受けていると考えられています。門下には「常住死に身」の精神を説いていたと伝えられています。

主要な作品

序奏と交響的アレグロ（1952年、オーケストラ）
ダンス・コンセルタンテ（1953年、オーケストラ）
エヴォケイション（EVOCATION）（1974年、マリンバソロ、6トロンボーン、6パーカッション）
ティンパナータ（Timpanata）（1977年、ティンパニソロ、他）
RAPSODIA CONCERTANTE（1983年、ヴァイオリンソロ、三管編成のオーケストラ）
古代的断章（1984年、12トロンボーン、6パーカッション）
ディヴェルティメント（Divertimento）（2000年・遺作、8打楽器）

映画音楽（一部）

ゴジラ（1954年、音楽アシスタント）
座頭市シリーズ
夜の河（1956年）
黒い画集 あるサラリーマンの証言（1960年）
電送人間（1960年）
白い巨塔（1966年）
牡丹燈籠（1968年）
妖怪大戦争（1968年）
ゴジラvsキングギドラ（1991年、音楽アシスタント）

池野成は、その生涯を通じて、映画音楽と純音楽の両分野で、独自の音楽世界を築き上げました。彼の作品は、民族音楽の要素と近代オーケストレーションの融合という、他に類を見ない独創的なスタイルで、多くの人々に感動を与え続けています。

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