のじま (巡視船・2代)

海上保安庁巡視船「のじま」：高度な救難能力と国際協力の軌跡

1989年9月21日、海上保安庁に新たな巡視船が就役しました。その名は「のじま」(JCG Nojima, PL-01)。1000トン型PL型に分類されるこの船は、単なる巡視船ではありませんでした。200海里排他的経済水域の制定という新海洋秩序に対応するため、1970年代後半に建造された28隻の1000トン型巡視船（しれとこ型）の後継として、救難能力の強化に重点を置いて設計された、いわばプロトタイプ的存在だったのです。

従来の巡視船は警備と救難の両方の任務をこなす設計でしたが、ハードウェアの限界から乗員への負担が大きくなっていました。そこで海上保安庁は業務をある程度分担する「業務指定船制度」を導入、さらに救難強化巡視船の建造も開始しました。しかし、これらは既存船への改良が中心であり、依然として能力不足が課題となっていました。また、この時代、大量に導入されたヘリコプターとの連携も十分に考慮されていませんでした。「のじま」はこれらの課題を解決すべく、ヘリコプターとの連携強化や潜水作業支援能力向上を目的に建造されました。

独自の設計と高度な装備

「のじま」の船型は長船首楼型、船体は鋼鉄製です。荒波にも耐える高い堪航性を確保するため、ブルワーク（船舷の側壁）を高くし、船首形状も工夫されています。上部構造物は船体中央部に集中配置することで、船体の揺れを軽減しています。ヘリコプターの運用能力を考慮し、フィンスタビライザーも装備されました。

操舵室には、OIC（Operation Information Center：運行情報センター）を設置し、高度集約操舵室システムを採用することで、迅速な指揮統制を可能にしました。居住区は機関室の前方に配置され、38名収容可能な会議室機能を持つ第1公室も備えていました。

推進システムは、ディーゼルエンジン2基（単機出力3,500馬力）と可変ピッチ・プロペラを組み合わせ、マリーナー型舵2舵によって優れた操舵性能を実現しました。遠隔操縦装置も備え、機関の監視・制御は操舵室から行うことができました。電源は、ディーゼルエンジン駆動の発電機3セット（出力150kVA）を搭載し、停泊時、航行時、出入港時で運転台数を調整することで、電力供給の安定性と経済性を両立させていました。

「のじま」の大きな特徴は、新造巡視船として初めて海中捜索救難システムを搭載したことです。水中テレビカメラ付きROV（遠隔操作無人探査機）と高周波サイドスキャン・ソナーにより、海中捜索救難能力が飛躍的に向上しました。また、船尾甲板上に設置されたヘリコプター甲板（公式には救難甲板）は、ベル212ヘリコプターの運用に対応し、燃料補給装置も備えていました。ただし、ヘリコプター格納庫は備えていなかったため、固有の搭載機はありませんでした。搭載艇は7.5メートル型潜水支援艇と7メートル型高速警備救難艇を各1隻搭載していました。

運用とマレーシアへの供与

「のじま」は、横浜海上保安部に配属された後、1997年に境海上保安部に転属し、「おき」と改名されました。2017年1月24日に解役となりましたが、その後、マレーシア海上法令執行庁（MMEA）への供与が決定しました。これは、南シナ海におけるマレーシアの海上警備能力強化支援の一環です。「のじま」は尾道市のジャパン マリンユナイテッド因島工場で改修を受け、2017年5月31日にマレーシアに向けて出港。沖縄、台湾、香港、フィリピンを経由し、6月8日にコタキナバルに到着しました。その後、クラン港で命名式が行われ、「KM Arau 8704」と命名されました。アラウはプルリス州の王都の名前です。

マレーシアで運用される「アラウ」は、補給なしで21日間活動できる高い能力を有し、警備・捜索救難活動だけでなく、今後整備される同庁の大型巡視船の乗員訓練にも使用される予定です。海上保安庁時代の主武装であるJM61-M 20mm多銃身機銃は撤去されましたが、銃座は残されており、将来的には30mm級の機銃やUAV（無人航空機）の搭載も検討されているようです。

「のじま」は、日本の海洋安全保障に貢献した後、国際協力の枠組みの中で、新たな任務を担うこととなりました。その活躍は、日本の高度な海洋技術と国際貢献の精神を示す象徴と言えるでしょう。

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