はくちょう座61番星

はくちょう座61番星：天文学の歴史を刻む連星

はくちょう座61番星は、はくちょう座に位置する恒星で、肉眼での観測ではさほど目立つ存在ではありません。しかし、その特筆すべき固有運動の大きさから、天文学者たちにとって非常に重要な観測対象となってきました。この星は連星系であり、二つの恒星が互いに周回し合っています。

概要

はくちょう座61番星の最大の特色は、その驚異的な固有運動の速さです。地球から見ると、約150年で満月の直径ほどの距離を移動するという、非常に大きな動きを見せます。この大きな固有運動が、恒星までの距離を測定する上で重要な役割を果たしました。

当時、年周視差を利用した恒星までの距離測定法が確立されたばかりの頃、既知の恒星の中で最大の固有運動を持つはくちょう座61番星は、最初の観測対象として選ばれました。そして、1838年にフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルによって、太陽以外で初めて地球からの距離が正確に測定された恒星となったのです。この観測では、現在用いられている11.4光年という値に非常に近い値が得られました。この偉業から、はくちょう座61番星は「ベッセル星」とも呼ばれています。

後に、グルームブリッジ1830というさらに大きな固有運動を持つ恒星が発見されました。しかし、肉眼で見える恒星という条件では、現在でもはくちょう座61番星が最も大きな固有運動を持つ星であることに変わりはありません。

連星系

肉眼では単一の星に見えますが、実際には、はくちょう座61番星は二つの恒星からなる連星系です。それぞれの恒星は、はくちょう座61番星AとBとして区別されています。明るい方のA星は5.2等級、暗い方のB星は6.1等級です。A星は、りゅう座BY型の回転変光星であり、B星は閃光星ですが、どちらも変光の範囲はごくわずかです。これらの星は、共通の重心を中心として約653.2年かけて互いを周回しています。

小型の双眼鏡（7×50）を使うと、はくちょう座61番星は、デネブから南東方向に双眼鏡の視野2つ分ほど離れた位置に観測できます。さらに高性能な双眼鏡や望遠鏡を用いると、この連星を分解して観測することが可能です。

惑星の可能性

過去には、はくちょう座61番星Bの周りに惑星や褐色矮星が存在するという説が提唱されたことがありました。しかし、当時の不十分な観測技術に基づく推測であり、現在では否定されています。ドップラーシフト法やトランジット法などのより高度な観測では、2012年現在、二つの恒星以外には伴星は見つかっていません。

フィクション

はくちょう座61番星は、その特徴的な性質から、SF作品などフィクションの世界で描かれることもあります。

関連項目

近い恒星の一覧

外部リンク

Jim Kaler's Stars: 61 Cygni
Sol Station — 61 Cygni
HD 201091 - SYMBAD
* HD 201092 - SYMBAD

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