ひろみの旅

郷ひろみ『ひろみの旅』：新たな出発点と時代のサウンドスケープ

1975年6月21日、CBS・ソニーレコードより発売された郷ひろみ5枚目のオリジナルアルバム『ひろみの旅』は、彼のキャリアにおいて重要な位置を占める作品です。ジャニーズ事務所を退所し、バーニングプロダクションに移籍後初のアルバムということもあり、新たな出発を象徴する一枚と言えるでしょう。前作『郷ひろみデラックス』からわずか3週間という短いスパンでのリリース、そして前作のオリジナルアルバム『ひろみの朝・昼・晩』からは約1年ぶりの発表でした。

アルバムの内容は大きく2部構成になっています。前半は、既にシングルとしてリリースされていた人気曲の数々が収録されています。これらの曲は、彼の高い歌唱力と、当時としては斬新なサウンドアレンジが魅力です。後半は、カバー曲で構成されており、注目すべきは新御三家と呼ばれる人気グループの楽曲も含まれている点です。これらのカバーは、郷ひろみ自身の解釈を加え、新たな魅力を引き出したアレンジが施されていると言えるでしょう。

特に印象的なのは、筒美京平氏による楽曲が多数収録されている点です。石坂まさ氏、安井かずみ氏といった著名な作詞家とのコラボレーションも光ります。郷ひろみと筒美京平氏の黄金コンビによる名曲は、アルバムの大きな聴きどころとなっています。また、森岡賢一郎氏、高田弘氏といった、当時第一線で活躍していた編曲家陣も参加し、楽曲に深みと広がりを与えています。

『ひろみの旅』は、オリコンチャートで初登場7位という好成績を収め、デビューからの7作連続トップ10入りという快挙を達成しました。これは、彼の高い人気と実力を証明する結果と言えるでしょう。そして、1991年にはCD規格で再発され、再び多くのリスナーに愛される作品となりました。

収録曲を詳細に見ていきましょう。まず前半は、12thシングル「花のように 鳥のように」、10thシングル「よろしく哀愁」、11thシングル表題曲「わるい誘惑」とそのカップリング曲「ふりむいた君」、そして12thシングルカップリング曲「五月の恋人たち」といった、彼の代表曲と言えるシングル曲が収録されています。これらの曲は、いずれも当時の若者たちの共感を呼び、広く親しまれた楽曲です。

そして後半のカバー曲には、オックスの「ダンシング・セブンティーン」、野口五郎の「青いリンゴ」、ビリーバンバンの「愛すべき僕たち」、つなき&みどりの「夜汽車よ故郷へ」、西城秀樹の「恋する季節」、マモル・マヌーの「サンゴ礁の娘」といった、世代を超えて愛される名曲が並んでいます。これらのカバーは、郷ひろみ自身の個性と歌唱力を活かしつつ、原曲の魅力を損なうことなく、新たな解釈を加えたアレンジが施されています。

さらに、収録曲の一つである「よろしく哀愁」は、NET系列ドラマ『ちょっとしあわせ』の主題歌として使用されました。このタイアップによって、さらに多くの視聴者に郷ひろみと彼の楽曲が知られることとなりました。

『ひろみの旅』は、郷ひろみの音楽的成熟と、当時の音楽シーンを反映した、非常に魅力的なアルバムです。既発シングルによるヒット曲の確認と、新御三家楽曲など幅広いカバー曲による新たな魅力の発見を通して、70年代の日本の音楽シーンを彩った作品を今一度堪能できるでしょう。このアルバムは、郷ひろみというアーティストのキャリアにおける大きな転換期を象徴するとともに、日本の音楽史においても重要な位置を占める作品として、高く評価されています。

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