ふるさとのささやき 〜新久留米市の歌〜

「ふるさとのささやき 〜新久留米市の歌〜」は、福岡県久留米市が定める2曲の市歌のうちの一つです。この楽曲は、作詞を長門石晶子氏が、作曲を久留米市出身の著名な音楽家である藤井フミヤ氏が、そして編曲を増本直樹氏が担当しました。

この歌が誕生する以前、久留米市には1951年（昭和26年）に制定された「久留米市の歌」が存在しました。これは、前年に開局20周年を迎えたNHK福岡放送局が企画したもので、福岡市や大牟田市と共に市歌が選定されたものです。当時の市歌は、作詞を花岡俊躬氏、作曲を世界的に活躍した作曲家、團伊玖磨氏が手掛けました。

2005年（平成17年）、久留米市は周辺自治体との合併という大きな転換期を迎えます。浮羽郡田主丸町、三井郡北野町、三潴郡城島町、三潴町の3郡4町を編入する形での合併でした。この合併に際して組織された久留米広域合併協議会では、自治体歌の扱いについて議論が行われました。合併に参加した自治体のうち、公的な市歌を制定していたのは久留米市だけであり、他の町は音頭や小唄の作成に留まっていたためです。

今回の合併は新設合併ではなく、従来の久留米市の法人格が存続する編入合併方式が採用されました。この方式では、市歌に関する特別な規定を設けない限り、従来の「久留米市の歌」が自動的に引き継がれることになります。しかし、協議会では単に自動存続させるのではなく、従来の市歌をどのように扱うべきか、改めて検討が加えられました。

従来の「久留米市の歌」を廃止せず、新しい市歌と併せて存続させるという結論に至った背景には、作曲者である團伊玖磨氏と久留米市との深い繋がりがありました。團氏の父、團伊能氏は、久留米市発祥の企業であるブリヂストンの創業者、石橋幹一郎氏と姻戚関係にありました。また、團伊玖磨氏自身も晩年に合唱曲「筑後川」を発表するなど、久留米市や筑後地方にゆかりが深かったことから、彼の作曲した市歌を廃止することに対して、久留米市側からは強い反対意見が出されました。「市という存在自体が無くなるわけではない。だからこそ、これまでの歴史や先人の功績を大切にしつつ、新しい久留米市として未来へ進んでいこう」という考えのもと、従来の市歌は存続が決定されたのです。これにより、合併後の久留米市では、従来の市歌と新規に制定される市歌の2曲が並立して歌い継がれることになりました。

合併協定書の調印が完了すると、間もなく新しい市歌の作成作業が本格的にスタートしました。この新市歌の作成にあたっては、一般的な自治体歌のように歌詞を先に募集し、それに曲を付けるという手法とは異なる、ユニークな方法が採用されました。久留米市出身で、国民的バンド・チェッカーズのボーカリストとして一世を風靡した藤井フミヤ氏に先に作曲を依頼し、完成したメロディーに合わせて歌詞を全国から懸賞募集するという「曲先」方式が取られたのです。この募集には全国から約1,400件にも及ぶ多数の応募があり、最終的には久留米市内に住む市民の書いた歌詞が見事採用されました。

こうして完成した「ふるさとのささやき 〜新久留米市の歌〜」は、2005年（平成17年）2月4日に発表され、合併当日の2月5日に久留米市告示第48号として正式に制定、披露されました。この歌は、新たなスタートを切った久留米市のシンボルソングとして、市民に愛され、歌い継がれています。

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