ほと

「ホト」は、古い日本語において女性器の陰門を意味する言葉です。「御陰」「陰所」「女陰」などの漢字が当てられることがありますが、現代ではほぼ死語となっています。しかし、この言葉が示す意味合いは、地名として日本各地に痕跡を残しています。それは、女性器の陰門に似た形状、湿地帯のような特質、あるいは陰になる地形といった特徴を持つ場所を指すものとして、その名残を見ることができるのです。

古事記における記述

古典として「ホト」という言葉が最初に登場する文献は、古事記の上巻です。イザナミ（伊耶那美）が神々を創生する場面で、次のように記述されています。

次に火之夜藝速男神（ヒノヤギハヤヲノカミ）を生みました。またの名を火之炫毘古神（ヒノカガビキコノカミ）といい、またの名を火之迦具土神（カグツチノカミ）といいます。この（火の神の）子を生んだことによって、（イザナミの）美蕃登（ミホト＝美しい女性器）は火傷をしてしまい、病気になって伏せてしまいました。

この記述において、「ホト」は「蕃登」と表記されています。その後の文献では、女性器が焼かれるという展開から「火門」と書かれたり、「含処」「陰」「火陰」「火戸」など、様々な表記が見られます。また、「ホト」には、敵対する勢力（客人神など）を弱める力があるとも考えられていました。

これは、古語においては漢字の字面よりも発音が重視されたためです。

地名としての「ホト」

日本各地には、「ホト」や「ホド」の音を持つ、様々な表記の地名が残っています。民俗学者の柳田國男は、これらの地名が女性器に似た地形、湿地帯のような特質、あるいは陰になる場所といった特徴から名付けられたと主張しています。これは、アイヌ語で川や河口を生殖器に例えるのと類似した考え方です。

「ホト」「ホド」の音を持つ地名には、安寧天皇陵の名前の由来となった「美保登」（みほと：奈良県）などがありましたが、和銅6年（西暦713年）に発令された「諸国郡郷名著好字令」（全国の地名を好ましい意味の漢字で書きなさいという命令）などによって、表記が変わっていきました。例えば、以下のような例があります。

保戸
保戸沢（ほどさわ：青森県）
保戸野（ほどの：秋田県）
保戸島（ほとじま：岐阜県、大分県）

保土
保土塚（ほどづか：宮城県）
保土沢（ほどさわ：岩手県、静岡県）
保土原（ほどはら：福島県）
保土ヶ谷（ほどがや：神奈川県。程ヶ谷駅として開業した駅がこの名に変更されたため、区名などがこちらで定着）

程
程森（ほどもり：青森県）
程田（ほどた：福島県）
程島（ほどじま：新潟県、栃木県）
程原（ほどわら：島根県、山口県）
程ヶ谷（ほどがや：神奈川県。保土ヶ谷とほぼ同じ場所）

これらの地名は、全国各地に散見されます。

その他の例

保戸田 - 保戸田氏という苗字も存在します。
小保戸遺跡 - 遺跡名にも使われています。

有名な事例

畝傍西南御陰井上陵（うねびやまひつじさる「みほと」のいのうえのみささぎ）：安寧天皇陵の別名。
美保登（みほと）：安寧天皇陵の名前の由来となった地名。
御陰井（ほとのい）：同上。
保土ヶ谷：横浜市の地名。柳田國男が「ほどがや」の「ほど」は「ホト」に由来するという説を唱えたことで知られています。

このように、「ホト」という言葉は、古代の神話から現代の地名まで、日本の文化と歴史に深く根ざしていることがわかります。

関連項目

古語
地名学
地名
* ボボ

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