ほんとうに

1976年10月7日から1977年5月5日にかけて、TBS系列で全31回にわたり放送されたテレビドラマです。制作はTBSとテレパックが手掛けました。脚本は橋田寿賀子、プロデューサーは石井ふく子という、「渡る世間は鬼ばかり」などで知られる名コンビが担当した作品です。

物語の舞台は、東京・日本橋に店を構える老舗の煎餅屋「はまかわ」。この店を切り盛りする浜川家の家族と、そこで働く従業員たちの人間模様が丁寧に描かれます。特に、息子たちの恋愛や結婚、そして日本の商家に古くから存在する嫁と姑の間の葛藤や問題に焦点が当てられました。

主人公格となるのは、「はまかわ」の女主人・浜川信乃（京塚昌子）とその家族たちです。信乃は店の伝統を守るしっかり者ですが、子持ちで再婚した長男・東作（関口宏）の妻・千絵（長山藍子）とは折り合いが悪く、嫁姑の間の確執が物語の核の一つとなります。千絵は前夫を亡くした後、連れ子の次男・明（羽田勉）を伴って浜川家に入籍しましたが、姑である信乃との関係はぎこちない様子が描かれます。長男の東作は中学卒業後すぐに家業を継ぎ、真面目に店を支えている人物です。

一方、信乃の次男・南平（草刈正雄）は、アメリカのカリフォルニア州に留学していましたが、兄・東作の結婚式のために2年ぶりに帰国します。帰国後、南平は老舗の煎餅作りに魅せられ、アメリカに戻らずに家業を手伝いたいと言い出し、一家を困惑させます。留学先で自由な空気に触れてきた南平と、古くからの伝統や慣習を重んじる信乃や東作との間には、家業の在り方を巡る考え方の違いが生じます。

物語は、浜川家の面々だけでなく、「はまかわ」で働く従業員たちにも温かい光を当てます。中でも、若い従業員の三浦桃子（大竹しのぶ）は、古い考え方に縛られがちな浜川家の中で、南平の理解者となり、物語に新しい風を吹き込む存在となります。他にも、職人の高木則夫（岡本信人）、湯村敬太（江藤潤）など、個性豊かな従業員たちが登場し、それぞれの人生や悩みも描かれます。湯村敬太は桃子にひそかに想いを寄せているが、その気持ちを伝えられずにいます。

また、千絵の前夫の母である戸倉克子（赤木春恵）や、千絵の連れ子の長男で戸倉家に残った聰（松田洋治）といった、千絵の過去に繋がる人々も登場し、物語に奥行きを与えます。さらに、信乃の幼なじみで小料理屋を営む野口恒介（佐藤英夫）や、信乃の姑・トキ（市川翠扇）の妹である田代フサ（杉村春子）など、多彩な登場人物が「はまかわ」を取り巻く人間模様を織り成していきます。

本作の音楽は佐良直美が担当し、主題歌「ほんとうに」と挿入歌「空が少しづつ」は草刈正雄が歌唱しました。これらの楽曲が、ドラマの情感をより一層深めています。

長らく再放送の機会がなかった本作ですが、2023年8月17日からは日本BS放送（BS11）にて、無料のBS放送局としては初めての再放送が行われ、往年のファンや新たな視聴者に再び感動を届けました。

『ほんとうに』は、橋田寿賀子らしい、家族や仕事、世代間の価値観の違いといった普遍的なテーマを、温かくも厳しい視点で描き出した作品です。老舗という舞台設定を通して、変わりゆく時代の中で、伝統を守ることと新しい価値観を取り入れることの難しさ、そして人と人との繋がりがいかに大切かというメッセージを伝えています。京塚昌子や長山藍子、草刈正雄、大竹しのぶといった実力派俳優たちの演技も、ドラマの魅力を高めています。

もう一度検索