みじかくも美しく燃え

『みじかくも美しく燃え』

本作は1967年にスウェーデンで製作されたドラマ映画です。原題は『Elvira Madigan』。監督はボー・ヴィーデルベリが務めました。1889年にスウェーデンで実際に起こった悲劇的な心中事件を基に、許されぬ愛に身を投じた二人の短い一生を詩的に描き出しています。

物語の背景と始まり

舞台は19世紀末、1889年のスウェーデン。登場人物は、妻子を持ちながらも高貴な伯爵位とスウェーデン軍の中尉という地位にある34歳のシクステン・スパーレと、大衆的な人気を集めていた21歳の若きサーカス綱渡り芸人、エルヴィラ・マディガンです。

当時の社会規範や厳格な身分制度の下では、二人の関係は決して認められるものではありませんでした。しかし、彼らは激しい恋に身を焦がし、周囲のすべてを捨てて共に生きることを選びます。それは、シクステンにとっては軍籍を放棄し、逃亡兵となることを意味する重大な背任行為であり、発覚すれば投獄は免れない犯罪でした。それでも二人は、わずかな所持金だけを手に、隣国デンマークへと逃避行を決行します。

逃避行の日々

デンマークに渡った二人は、人目を避けながら偽名を使い、田舎の宿を転々とします。ひっそりと愛を育む日々は、刹那的な幸福に満ちていました。エルヴィラの両親が彼らを追ってデンマークにやって来ますが、発見には至りませんでした。しかし、二人の駆け落ちのニュースは、似顔絵入りの記事となって新聞に掲載されてしまいます。正体が露見するのを恐れた彼らは、さらに人里離れた場所へと移動を強いられます。

生活は次第に困窮を極めていきます。魚を釣ったり、森で木の実を拾ったりして飢えをしのぐありさまとなりますが、それでもシクステンはかろうじて体面を保てる程度の宿に滞在することを譲りません。かつての同僚であり友人であったクリストファーが彼らを見つけ出した時も、二人は困窮を隠そうと虚勢を張ります。クリストファーはそんな二人に対し、あえて彼らを拘束せず、その逃亡を見逃すという行動をとります。

深まる絶望と破滅

貴族階級に属していたシクステンは、自らの手で労働して生計を立てるという経験や能力を持ち合わせていませんでした。そして、逃亡兵として身分を隠している以上、まともに仕事に就くことも叶いません。経済的な困窮は深刻化し、宿泊する場所も次第に粗末になっていきます。

愛するエルヴィラのために、シクステンは何もしてやれない自分に苦悩します。金銭を得るため、エルヴィラが祭りで足を見せながら歌うという行為に及んだ時、シクステンは耐えきれないほどの苦痛と屈辱を感じます。逃亡生活の先に希望が見出せなくなった二人は、次第に追い詰められ、絶望の淵に立たされます。

悲劇的な結末

もはやこの先に道はないと覚悟を決めた二人は、共にその短い人生を閉じることを選びます。季節が秋の気配を見せ始める頃、彼らはデンマークのトーシンエ島で、拳銃を用いて心中を図ります。かくして、身分違いの激しい愛に身を投じた二人の悲劇的な物語は幕を閉じました。

作品の魅力と評価

本作は、ボー・ヴィーデルベリ監督の美しい映像表現が大きな魅力です。デンマークの自然を背景に、二人の心情が詩的に描かれます。劇伴には、ハンガリーの著名なピアニスト、ゲザ・アンダの演奏によるモーツァルトの『ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467』（第2楽章は特に「エリヴィラ・マディガン」として知られる）や、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『四季』が効果的に用いられ、物語の抒情性と悲劇性を高めています。

主演を務めた当時17歳のピア・デゲルマルクは、その瑞々しくも繊細な演技が高く評価され、第20回カンヌ国際映画祭で女優賞に輝きました。シクステン役はトミー・ベルグレン、友人のクリストファー役はレンナント・マルメンが演じています。日本での公開にあたって付けられた『みじかくも美しく燃え』という邦題は、作詞家として知られる岩谷時子氏が命名したものです。

本作は、身分制度に囚われず真実の愛を貫こうとした男女の、美しくも哀しい破滅の物語として、後世に語り継がれています。

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