むらさき日記

むらさき日記

「むらさき日記」は、日本の音楽グループ、ジャッキー吉川とブルー・コメッツによって発表された楽曲である。

概要

1970年9月25日にシングルレコードのA面としてリリースされた。作詞は橋本淳が担当し、作曲は井上忠夫が手掛けた。この作詞・作曲コンビは、過去に「草原の輝き」などのヒット曲でブルー・コメッツと協業しており、本作は1968年の「草原の輝き」以来、実に7作品ぶりの橋本・井上コンビによる提供楽曲となった。

音楽性

ブルー・コメッツは、1968年に発表した「さよならのあとで」以降、従来のグループ・サウンズの枠を超え、より日本の歌謡曲、特にムード歌謡の要素を強く取り入れた音楽性を追求する路線へと転換していた。

本楽曲「むらさき日記」は、この歌謡曲路線において、一つの新しい試みが見られた作品である。それは、それまでグループが直接的には踏み込んでいなかった、旧来のムード歌謡コーラスグループが用いる典型的な歌唱スタイルや楽曲構造を、明確になぞる形で制作された点にある。楽曲のメロディー、アレンジ、演奏、そしてメンバーによる歌唱法に至るまで、ムード歌謡が持つ独特の雰囲気が色濃く反映されている。このアプローチは、ブルー・コメッツが歌謡曲というジャンルの中で様々な表現方法を模索し、既存の確立されたスタイルを取り込もうとした結果であり、この時期の歌謡曲路線における一つの到達点、あるいは区切りを示す作品として捉えることもできる。

歌詞

作詞家・橋本淳によって書かれた歌詞は、失われた愛の記憶に焦点を当てている。主人公の女性が、かつて愛した人との思い出が綴られた日記を手に取り、その一ページ一ページに記された過去を振り返る。そして、最終的にはその大切な日記を自らの手で燃やしてしまうという情景が描かれている。これは、過去との決別を選び、新たな一歩を踏み出そうとする女性の切なくも強い意志や、過去への未練を断ち切ろうとする心情を描いたものであり、ムード歌謡の情感豊かな世界観に合致した内容となっている。

商業成績

しかし、音楽的な挑戦や楽曲の世界観とは対照的に、「むらさき日記」の商業的な成績は低調に終わった。オリコンシングルチャートにおける最高順位は74位であり、これは直前のシングル「泣きながら恋をして」と比較して大幅に順位を落とす結果となった。このチャートアクションは、当時のジャッキー吉川とブルー・コメッツの人気が下降線を辿っていた状況を如実に示しており、グループが全盛期を過ぎて商業的な苦戦を強いられていた時期の作品であることを物語っている。

B面曲

シングルのB面には、「だから今すぐ」という楽曲が収録されている。こちらもA面曲「むらさき日記」と同様に、ムード歌謡の要素を取り入れた作品である。特に、楽曲の間奏部分で印象的に響くストリングスの音色は、曲の雰囲気をより一層引き立てる効果を上げている。AB面ともに、この時期のグループが目指していた音楽性を示す楽曲と言えるだろう。

結び

「むらさき日記」は、ジャッキー吉川とブルー・コメッツがグループ・サウンズから歌謡曲への移行期に発表した作品であり、特に従来のムード歌謡スタイルへの初めての挑戦という音楽的な特徴を持つ。しかし、商業的には成功を収めることができず、当時のグループの人気低迷を象徴する一曲ともなった。この楽曲は、全盛期を過ぎたアーティストが新たな音楽性を模索する上での困難さと、その過程で生まれた試みの一端を示す資料として、グループの歴史の中に位置づけられる。

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