やまだ紫

やまだ紫の生涯

やまだ紫（本名：白取三津子）は、1948年9月5日に東京都世田谷区で生まれました。漫画家、エッセイスト、詩人として多彩な才能を発揮し、日本のサブカルチャー史にその名を刻みました。彼女は、1966年に私立富士見丘高等学校を卒業後、詩の同人会『しちにん』に参加し、詩作活動を開始しました。翌年からはデザイン事務所に勤務する傍ら、手塚治虫が主宰する虫プロ商事の漫画雑誌『COM』へ漫画作品の投稿を始めました。

1969年、『COM』5月号にて漫画家デビューを果たし、以降同誌に精力的に作品を発表しました。『COM』廃刊後は、青林堂の『ガロ』へと発表の場を移し、1971年2月号に掲載された『ああせけんさま』が入選を果たしました。さらに、1972年には、漫画賞の中でも難関として知られる『ビッグコミック賞』にて「風の吹く頃」が佳作3席に入賞し、その実力を広く認められました。

結婚・出産による一時休筆期間を経て、『ガロ』誌上で『性悪猫』『しんきらり』など、彼女の代表作となる作品を次々と発表しました。これらの作品は、当時の漫画界において異彩を放ち、長井勝一（ガロ編集長）、つげ義春（漫画家）、上野昻志（評論家）など、多くの文化人から高い評価を受けました。また、無名時代の杉浦日向子や近藤ようこがアシスタントを務めていたことは有名で、後に彼女たちも『ガロ』からデビューし、「ガロ三人娘」として知られるようになりました。

1980年代からは、女性詩人の大家である吉原幸子が主宰する『現代詩ラ・メール』に詩画連載『樹のうえで猫がみている』を発表し、詩人としての才能も開花させました。また、H氏賞・高見順賞受賞詩人でもある井坂洋子と合作『夢の迷子たち』を刊行するなど、詩人としても精力的な活動を展開しました。1989年には、第15回参議院議員選挙に「ちきゅうクラブ」公認で比例区から立候補しましたが、落選しました。

1994年からは、毎日新聞生活家庭欄にてイラストエッセイ『お勝手に』の連載を開始。3年という異例の長期連載となりました。1992年2月からは、筑摩書房より『やまだ紫作品集』全5巻が刊行され、各巻の解説には、山田太一、井坂洋子、久田恵、上野昻志といった豪華な面々が執筆しました。また、1993年には『ガロ』2・3合併号でやまだ紫特集が組まれ、つげ義春、高橋章子、井坂洋子、内田春菊、黒川創ら著名な作家や評論家がコメントを寄稿しました。1997年3月には、漫画家としては早い時期に公式サイト「やま猫SOMETIMES」をオープンし、インターネット上での情報発信も積極的に行いました。

2002年には腎臓摘出手術を受け、その後は術後の痛みや膵臓炎による1型糖尿病と闘いながら、入退院を繰り返しました。2004年からは、歌人の宮柊二が主宰する「コスモス」より依頼を受け、詩画連載「見上げれば虹」を連載（大学教授就任により中断）。2006年からは、京都精華大学マンガ学部マンガ学科ストーリーマンガコースの専任教授に就任し、後進の指導にも尽力しました。2007年からは京都に在住し、2009年5月5日午前4時16分、京都市内の病院にて脳内出血のため60歳で逝去しました。

やまだ紫の主な作品

彼女の作品は多岐に渡りますが、主な出版物としては以下のようなものがあります。

漫画作品
『性悪猫』（1980年、青林堂）
『鳳仙花』（1980年、ブロンズ社）
『鈍たちとやま猫』（1981年、青林堂）
『しんきらり』（1982年、青林堂）
『はなびらながれ』（1983年、青林堂）
『ゆらりうす色』（1984年、講談社）
『続しんきらり』（1984年、青林堂）
『空におちる』（1985年、河出書房新社）
『しあわせつぶて』（1986年、青林堂）
『マンガ日本の古典』シリーズ第21巻『御伽草子』（1997年、中央公論社）
エッセイ・詩画集
『満天星みた』（1985年、大和書房）
『樹のうえで猫がみている』（1990年、筑摩書房）
『東京ノスタルジア』（1991年、フレーベル館）
『お勝手に』（1996年、毎日新聞社）
作品集・その他
『やまだ紫作品集』全5巻（1992年、筑摩書房）
『Blue Sky』第1巻、第2巻（1992年、1993年、中央公論社）
『夢の迷子たち』（1995年、翔泳社）-井坂洋子との合作
『やま猫人生放談』（1995年、同文書院）
『愛のかたち』（2004年、PHPエディターズ・グループ）
* 『ねこのふしぎ話』（2021年、興陽館）-短編集

やまだ紫の業績と影響

やまだ紫は、漫画家としての活動に加え、詩人、エッセイストとしてもその才能を発揮し、多岐にわたる分野で活躍しました。彼女の作品は、繊細な心理描写や独特のユーモアセンスで読者を魅了し、多くのクリエイターに影響を与えました。晩年は、大学教授として後進の育成にも尽力し、その才能は今もなお、多くの人々に影響を与え続けています。

彼女の作品は、現在も多くの人々に愛されており、その魅力は色褪せることはありません。彼女の残した作品は、日本のサブカルチャー史における重要な遺産として、後世に語り継がれていくことでしょう。

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