りゅうこつ座イオタ星

りゅうこつ座ι星（アスピディスケ）

概要

りゅうこつ座に位置する恒星、りゅうこつ座ι星は、南天の夜空で目を引く2等星です。この星は、南十字星とよく間違えられる「ニセ十字」を構成する恒星の一つとして知られています。地球の極軸が長い年月をかけて移動する歳差運動により、西暦8100年頃には、現在のポラリス（北極星）のように、天の南極に最も近い位置に来て「南極星」の役割を果たすようになると予測されています。

恒星としての特徴

りゅうこつ座ι星は、スペクトル分類ではF型に属する白色超巨星です。その進化段階としては、中心部で水素原子核の融合によるヘリウム生成が終わり、新たにヘリウム原子核が融合してさらに重い元素を生成する活動が始まった段階にあると考えられています。これにより、星の内部は高温化する一方で、その外層は大きく膨張し、表面温度は比較的冷たくなっています。

この星の自転は非常にゆっくりで、一周するのに215日以上を要します。これは赤道付近の自転速度が毎秒10キロメートル程度に相当します。遅い自転にもかかわらず、りゅうこつ座ι星は磁気的な活動を示しており、それに伴ってX線を放出していることが観測されています。また、この星に含まれるヘリウムよりも重い元素（天文学でいう金属）の割合は、太陽と比較して低く、約0.4倍程度であることが分かっています。

恒星としての進化の末期において、多くの大質量星は超新星爆発を起こして生涯を終えますが、りゅうこつ座ι星は質量がそれほど大きくないため、この段階を経ることなく、外層を放出して縮退した中心核が残る「白色矮星」へと進化していくと予想されています。

名称の由来

りゅうこつ座ι星の固有名である「アスピディスケ（Aspidiske）」は、古代ギリシア語で「小さな盾」を意味する言葉に由来しています。この名称は、紀元2世紀の天文学者クラウディオス・プトレマイオス（トレミー）が、その著書「アルマゲスト」の中で、当時はアルゴ座の一部であった複数の星々を指す際に使用した古い呼び名に端を発します。

現代において、この固有名が正式なりゅうこつ座ι星の名称として認められたのは比較的最近のことです。2016年7月20日に、国際天文学連合（IAU）の恒星の命名に関するワーキンググループ（WGSN）によって、「Aspidiske」がりゅうこつ座ι星の固有名として正式に承認、登録されました。

ちなみに、同じく南天の星座であるとも座には、アスミディスケ（Asmidiske, とも座ξ星）と名付けられた恒星が存在します。この星の名前も、アスピディスケと同じ「小さな盾」というギリシア語の語源から派生し、長い歴史の中で発音がわずかに変化したものと考えられています。

もう一度検索