りゅう座アルファ星

トゥバン (りゅう座α星)

トゥバンは、りゅう座に位置する4等級の恒星です。りゅう座の中では最も明るい星ではありませんが、「りゅう座アルファ星（α Draconis / α Dra）」という符号が与えられています。

歴史的な重要性

この星は、かつて地球の自転軸の方向と非常に近い位置にあったため、紀元前2700年頃には「北極星」として観測されていました。当時のエジプト文明などでは、この星が夜空の中心として利用されていたと考えられています。しかし、地球の歳差運動によって自転軸の向きは少しずつ変化するため、トゥバンはやがて北極から遠ざかり、紀元前1900年頃には、現在の北極星であるこぐま座α星に当たる位置に北極が近づいていきました。このように、トゥバンは人類の天文学の歴史において、重要な役割を果たした恒星の一つです。

特徴と連星系

トゥバンは、単独の星ではなく連星であることが長年研究されてきました。20世紀初頭から、単線分光連星であると考えられており、主星（A0III型の巨星）の周囲を、およそ51.5日の周期で公転する伴星が存在することが知られていました。スペクトル線の周期的なずれから伴星の存在が示唆されてきたものです。

しかし、2019年にアメリカ航空宇宙局（NASA）の太陽系外惑星探索衛星TESSが行った高精度な観測によって、トゥバンが食連星（食変光星）であるという新たな知見がもたらされました。TESS衛星が取得した精密な光度曲線（天体の明るさの時間変化を示すグラフ）の解析から、主星と伴星が互いの手前を周期的に通過し合うことで、星系全体の明るさがわずかに変化している様子が捉えられたのです。

この研究成果により、トゥバンを構成する二つの星は非常に近接しているものの、互いの大気が接触しているような状態ではない、非接触の食連星であることが明らかになりました。過去には、トゥバンが約53分という短い周期でごくわずかに変光する「マイア型変光星」に分類される可能性が提唱され、天文学者の間で議論を呼んでいました。しかし、今回のTESSによる光度曲線からは、食による変光以外に、このような短周期の変光を示す明確な証拠は得られませんでした。

名称の由来

トゥバンの固有名「Thuban」は、アラビア語に起源を持ちます。元々はアラビア語で「蛇の頭」を意味する「raʾs al-tinnīn」と呼ばれていました。この言葉がルネサンス期にラテン語に翻訳される過程で、「Rastaben」という綴りになった記録があります。しかし、後に元の「al-tinnīn」（竜、蛇）ではなく、アラビア語で単に「蛇」を意味する「thūʿban」という言葉に由来するのではないかという誤った解釈が生まれました。さらに、この「thūʿban」がアラビア語でりゅう座全体を指すという、さらなる誤解も広まりました。

こうした経緯を経て「Thuban」という名称が定着しましたが、国際天文学連合（IAU）の恒星の命名に関するワーキンググループ（WGSN）は、2016年6月30日に「Thuban」を正式にりゅう座α星の固有名として承認しました。現代の天文学では、この固有名が広く用いられています。

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