りゅう座ガンマ星

りゅう座γ星（エルタニン）

りゅう座γ星（ガンマせい）は、夜空に輝くりゅう座の中で最も明るい恒星です。視等級は2等星に分類されており、肉眼でも比較的容易に見つけることができます。この星は、その独特な橙色と、天文学史における重要な出来事との関わりで知られています。

特徴と物理的性質

この星の固有名はエルタニンで、印象的な橙色に輝く巨星です。すでに主系列星としての寿命を終え、膨張して巨大化した段階にあります。その直径は太陽の約50倍にも達し、もし太陽系の中央に位置したと仮定すると、その表面は惑星水星の軌道のおよそ半分にまで達する広がりを持ちます。

現在、エルタニンは巨星化が進行中で、明るさを増しており、内部ではヘリウムの核融合が始まる時期が近いと考えられています。

将来の明るさと接近

エルタニンは、天文学的な時間スケールで見ると、将来的に地球に比較的接近することが予測されています。およそ150万年後には、地球から約28光年という比較的近い距離を通過すると考えられています。もしこの将来の接近時に、全天で最も明るい恒星であるシリウスの明るさが現在と変わらなければ、エルタニンはシリウスを凌ぐ明るさとなり、全天で最も輝く星となる可能性が指摘されています。これは、恒星の固有運動によって夜空の最も明るい星が変わり得ることを示唆する興味深い予測です。

天文学史における重要性

エルタニンは、天文学の歴史において非常に重要な役割を果たした星でもあります。1728年、イギリスの天文学者ジェームズ・ブラッドリーは、地球の公転による年周視差を精密に測定しようと試み、その対象としてエルタニンを選びました。当時の観測技術では、期待していた年周視差の測定には成功しませんでしたが、観測データから星の見かけの位置が年周期でわずかにずれる別の現象を発見しました。これが、後の「光行差」と呼ばれる現象です。光行差は、地球の公転運動が星からの光の見かけの方向をずらすことによって生じます。

ブラッドリーによる光行差の発見は、天文学に大きな進歩をもたらしました。特に、ニコラウス・コペルニクスが提唱した地動説、すなわち地球が太陽の周りを回っているという考え方を強力に裏付ける決定的な証拠の一つとなりました。もし地球が静止しているならば、このような光行差は観測されないからです。エルタニンを使ったこの観測が、天文学のパラダイムシフトを支える重要な礎石となったのです。

名称の由来

りゅう座γ星には、いくつかの歴史的な名称があります。最も広く知られている固有名は「エルタニン（Eltanin）」です。この名前は、アラビア語で「蛇」を意味する言葉に由来しており、2016年8月21日には国際天文学連合（IAU）の作業部会によって正式に承認されました。

かつては、古代ギリシャの天文学者プトレマイオスがその著書『アルマゲスト』において、この星をりゅう座を構成する「蛇の頭」の部分に位置づけたことから、アラビア語で「蛇の頭」を意味する「ラスタバン（Rastaban）」という名前でも呼ばれていました。

さらに、イギリスの旧グリニッジ天文台から見ると、この星はほぼ真上、すなわち天頂付近を通過することから、「Zenith Star（天頂の星）」という別名も持っています。

関連事項

エルタニンの見かけの位置の近くには、毎年10月上旬頃に活発化することで知られるジャコビニ流星群（正式には「りゅう座流星群」）の放射点があります。流星群を観測する際には、エルタニンを目印にすると、放射点を見つけやすくなります。

このように、りゅう座γ星エルタニンは、美しい橙色の輝きを持つ巨星であるだけでなく、天文学の歴史における重要な発見の舞台となり、独特の名称を持つなど、多くの魅力を持つ恒星です。

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