ジャコビニ流星群

ジャコビニ流星群（10月りゅう座流星群）

「ジャコビニ流星群」として広く知られるこの天体現象は、国際天文学連合（IAU）における公式名称を「10月りゅう座流星群（October Draconids）」といいます。これは、毎年10月8日から10日前後の期間、特に夕方の時間帯に観測される可能性のある流星群です。この流星群を生み出す母天体は、ジャコビニ・ツィナー彗星（周期彗星番号21P/Giacobini-Zinner）です。IAUによる識別番号は9番が付与されています。

名称の由来と公式化

かつてはジャコビニ彗星とも呼ばれた母天体ジャコビニ・ツィナー彗星の名を取って、「ジャコビニ流星群」と呼ばれてきました。しかし、2009年に開催されたIAU総会において、流星群の公式名称を一部定める際に、流星群の名称に彗星名を使用しないという方針が決定されました。これにより、この流星群の公式名称は、出現時期と放射点のある星座にちなんだ「10月りゅう座流星群」に変更されました。時には「りゅう座ガンマ流星群（gamma Draconids）」という別名で呼ばれることもあります。

特徴

ジャコビニ流星群の最大の特徴は、その活動が非常に突発的である点です。ペルセウス座流星群やふたご座流星群のように、毎年決まった時期に比較的安定した活動を見せる流星群とは異なり、年によって出現数が大きく変動します。彗星の軌道に沿って放出された流星物質が、肉眼で見える流星のもととなります。これらの物質は最大秒速20メートル程度の速度で放出されるとされており、この放出状況に基づいて流星の出現予想が試みられることもあります。しかし、流星物質の分布は均一ではなく、特に木星のような巨大惑星の重力の影響を受けやすいため、ダストトレイル（塵の帯）の形状が複雑に変化し、地球軌道との位置関係によって流星の出現状況が劇的に変わるのです。

これまでの観測記録

ジャコビニ流星群の活動が明確に確認されたのは、1926年が最初とされています。それ以前にも専門家の間では出現への期待はありましたが、信頼できる記録は残っていません。1926年に初確認された後、特に注目すべき流星雨が観測されています。1933年にはヨーロッパで、1946年にはアメリカで、いずれも現地の10月9日夕方以降に、非常に多くの流星が出現する「流星雨」が記録されました。1952年にはレーダーによる観測がなされています。

特筆すべきは1972年の出来事です。この年、母彗星の軌道と地球の軌道が非常に接近し、しかも地球が彗星通過からわずか58日後にその場所を通過するという、理論的には大規模な流星雨が予想される好条件でした。しかし、条件が良いとされた日本などでは、期待されたような流星雨は観測されませんでした。これは当時の天文学界で大きな謎とされましたが、現在では、過去の木星との接近などによって、ダストトレイル、特に彗星の後方に放出された物質の分布が、軌道内側に折りたたまれたような、従来の予想を超えた複雑な形に急変していたことが原因と考えられています。

その後も活動は観測されており、例えば1985年10月8日には、日本の日没時の薄明かりの中でもかなり活発な活動が捉えられました。1998年10月8日には、日本時間22時過ぎを中心に数時間の活動が観測されています。弱いながらも活動が観察された年は他にもいくつかあります。2005年10月9日未明には、1953年の彗星近日点通過時に放出されたダストトレイルによると見られる弱い活動が中国とヨーロッパで観察されました。比較的多くの流星が観測された最近の例としては、2011年10月のヨーロッパでの観測が挙げられます。

文化への影響

1972年に大規模な流星雨が予想された際には、日本国内でジャコビニ流星群への関心が非常に高まり、ちょっとした天体観測ブームが巻き起こりました。しかし、前述の通り予想が外れたことで、新聞やテレビといったマスコミでも大きく報じられ、予想を公表していた国立天文台が批判にさらされるといった一面もありました。一方で、この「予想が外れた」ジャコビニ流星群の出来事がきっかけで天文学に興味を持ち、後に天文学者となって国立天文台の副台長を務めた渡部潤一氏のような人物もいます。

流星雨自体は観測されませんでしたが、「ジャコビニ流星群」という名称はこれを機に広く一般にも知られるようになりました。この流星群や母天体をモチーフとした作品も生まれています。音楽では、松任谷由実の楽曲「ジャコビニ彗星の日」（1979年、アルバム「悲しいほどお天気」収録）が有名です。また、アンジーの楽曲「アストロボーイ、アストロガール」（1988年）にもワンフレーズが登場します。

漫画やアニメの世界でも、必殺技や攻撃名として登場しています。1972年から連載された野球漫画「アストロ球団」には「ジャコビニ流星打法」が登場します。さらに、アニメ作品では「プロジェクトA子」（1986年）に「暗黒ジャコビニ流星ラッシュ」が、「トップをねらえ！」（1988年）には「ジャコビニ流星アタック」という技が登場します。これらは「ジャコビニ流星打法」のパロディとしての側面がありますが、1985年の活発な活動によって再びこの名前が広く認識されたことも、命名の一因になったと推測されています。

ジャコビニ流星群は、予測の難しさや過去の観測のドラマ性、さらには文化への波及も含め、多くの人々の記憶に残るユニークな流星群と言えるでしょう。毎年10月8日から10日頃の夕方は、この気まぐれな天体ショーに思いを馳せる特別な時間かもしれません。

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