ろうを生きる 難聴を生きる

はじめに

NHK Eテレで長きにわたり放送された情報番組『ろうを生きる 難聴を生きる』は、聴覚に障害のある人々、すなわちろう者、難聴者、中途失聴者を主な対象として制作されました。2004年4月10日に放送を開始し、2022年3月26日までのおよそ18年間にわたり、彼らの生活、福祉、社会参加といった幅広いテーマを扱い、有益な情報を届けてきました。

番組の変遷とルーツ

本番組の歴史は古く、その源流はかつて毎週日曜日の夕刻に放送されていた「聴力障害者の時間」にさかのぼることができます。この初期の番組では、一週間の主要な出来事を伝えるニュースコーナーと、聴覚障害のある人々の暮らしや福祉に関する情報コーナーで構成されていました。ニュースはヘッドラインに字幕が付与され、解説部分は手話と映像を用いて詳しく伝えられました。情報コーナーでは、内容を手話通訳を介して提供していました。

その後、NHKで「NHK手話ニュース」が独立して放送を開始したことに伴い、「聴力障害者の時間」からニュース部門が分離しました。残った情報コーナーが内容をさらに掘り下げ、聴覚障害者向けの専門情報番組としての性格を強め、「聴覚障害者のみなさんへ」と改題されました。そして、この番組が発展的に改称され、最終的に『ろうを生きる 難聴を生きる』というタイトルになりました。この名称の変遷は、番組が扱うテーマや対象者の多様性、社会における聴覚障害者に対する理解の深まりといった背景を映し出しています。

内容と表現方法の進化

『ろうを生きる 難聴を生きる』では、聴覚障害当事者の率直な声や体験談、暮らしを支える最新の福祉制度や支援策、円滑なコミュニケーションを実現するための様々な手段（手話、筆談、テクノロジー活用など）、そして聴覚障害者が直面する社会的な課題とその解決に向けた取り組みなど、多岐にわたる内容が取り上げられました。

番組開始当初は、主に文字多重放送（データ放送）を利用した字幕表示が採用されていました。しかし、より多くの視聴者が手軽に番組内容を把握できるよう、後には番組本編の映像に最初から字幕テロップが埋め込まれる形式へと変更されました。この変更は、視聴者側の利便性を大きく向上させるものでした。

放送形式とアクセシビリティへの配慮

放送頻度に関しても見直しが行われました。番組開始から2011年3月までは、同じ内容を2週間かけて合計4回繰り返し放送する体制が取られていました。しかし、2011年4月からは毎週新しい内容が制作・放送されるようになり、本放送と再放送を合わせて週に2回、異なる時間帯に視聴できる形式に変更されました。これにより、常に新しい情報が提供されるようになりました。

また、聴覚だけでなく視覚にも重複して障害を持つ「盲ろう者」の視聴者への配慮として、特定の回では解説放送が実施されていました。この解説放送の取り組みは拡大され、2014年からは全ての放送回において標準的に実施されるようになりました。これは、番組のアクセシビリティをさらに高め、より多様なニーズを持つ人々にも情報が届くようにするための重要なステップでした。

単独番組としての終焉と新たな形へ

『ろうを生きる 難聴を生きる』は、2021年度をもって長年にわたる単独番組としての放送を終了しました。これは、NHKの番組編成全体の変更に伴うものでしたが、聴覚障害者向けの情報発信そのものが途絶えたわけではありません。

2022年度からは、NHK Eテレで放送されている別の福祉情報番組「ハートネットTV」の中で、『#ろうなん〜ろうを生きる 難聴を生きる〜』という名称の不定期企画として、その役割と精神が引き継がれています。形は変わっても、聴覚障害のある人々が社会でより豊かに生きるための情報や、社会が彼らをより深く理解するためのメッセージを発信し続ける取り組みは続いています。

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