わが母は聖母なりき

自伝的小説『わが母は聖母なりき』

八木隆一郎が1936年に発表した自伝的小説『わが母は聖母なりき』は、母の愛情や苦しみを描いた感動的な作品です。この物語は、明治42年（1909年）の秋田県能代を舞台に、貧しい小作農の家に生まれた女性、ふみの人生を追っています。ふみは結婚し、子供を産むものの、流産によって彼女の体は弱り、夫や姑から疎まれ、24歳で離婚することとなります。

ふみは息子を置いて実家に戻りますが、そこでも彼女は心安らぐことができません。弟夫婦が仕切っている実家では、居心地の悪さを感じて孤独に過ごす日々が続きます。そんなある日、ふみは流れてくる風の噂で、置いてきた息子が虐待されていることを知ります。この知らせを受けたふみは、母としての強い愛情から、元の家から息子を連れ出し、北海道の函館に向かう決心をします。

函館にたどり着いたふみは頼れる人もおらず、厳しい環境に直面します。彼女は果物や野菜の行商を始め、さらには土木工事に従事し、時には料理屋で酌婦として働くことも。息子と共に必死に生き抜こうとする彼女の姿は、多くの読者に感動を与えます。物語を通して、母の無償の愛や、困難に立ち向かう強さが描かれています。

テレビドラマ化

『わが母は聖母なりき』はその感動的なストーリーから、1969年と1980年に2度テレビドラマ化されています。

1969年版

1969年4月から7月にかけて、関西テレビの「火曜劇場」枠で放送されました。水野久美、香川秀人、中村嘉葎雄、伴淳三郎といった実力派俳優がキャストに名を連ね、木原紘一監督のもとで制作されました。音楽は渡辺岳夫が担当し、主題歌も彼が手掛けています。

1980年版

1980年は、TBSの「花王 愛の劇場」枠で放送されました。主演は市原悦子がふみ役を務め、福次郎役には庄司顕仁と坂東正之助が出演しました。この版でも高橋繁男や菱田義雄が監督を務め、素晴らしいスタッフが制作に関与しています。音楽には木下忠司が起用され、主題歌「ねねしな灯台」は市原悦子が歌い上げました。

このように『わが母は聖母なりき』は、母の愛情とその葛藤を深く掘り下げた作品であり、数十年にわたり多くの人々に感銘を与え続けています。母親としての強さや、息子との絆がどのように描かれているのか、ぜひ一度手に取ってみてほしい一冊です。

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