わさび (映画)

わさび

2017年に公開された短編映画『わさび』は、気鋭の映画監督である外山文治が手がけた人間ドラマである。父親の病をきっかけに、人生の大きな決断を迫られた一人の女子高生の葛藤と成長、そして周囲との関わりを描き出す。

あらすじ

物語の中心となるのは、女子高生の山野葵である。彼女の父親、山野和夫は、寿司屋「やま乃」を営んでいたが、精神的な病を抱えたことで店を続けることが困難になってしまう。父を案じ、そして店の危機に直面した葵は、自らが「やま乃」の暖簾を継ぐことを決意する。

しかし、高校生である娘が家業を継ぐという唐突な決断に対し、周囲の大人たちは冷ややかな目を向ける。中でも、父親とは既に離婚している母親の小原房子は、葵の選択に猛反対する。孤立感を深めながらも、葵は自らの道を模索し続ける。

そんな折、葵の前に現れたのが、かつて彼女が所属していた少年野球チーム「高山メッツ」の監督を務めていた梅田庄吉だった。ある事情で小指を欠損している庄吉だが、変わらず野球への情熱を持ち続け、子供たちの指導にあたっていた。庄吉の、どんな困難にも立ち向かうかのようなその姿に、葵は希望を見出す。彼女は庄吉に、自身の抱える切実な思いをぶつけ、野球での真剣勝負を挑むのだった。この出会いが、葵の閉ざされていた心を少しずつ開いていくことになる。

登場人物

本作を彩る主要な登場人物と、それを演じた俳優は以下の通り。

山野葵：演 - 芳根京子
主人公。父の病を機に寿司屋を継ぐことを決意する女子高生。かつては梅田庄吉が監督を務める少年野球チームに所属していた。
山野和夫：演 - 杉本凌士
葵の父。寿司屋「やま乃」の板前だったが、精神的な病により店を続けられなくなる。
小原房子：演 - 富田靖子
葵の母。和夫とは離婚しており、葵の寿司屋継承に反対する。
梅田庄吉：演 - 下條アトム
かつて葵が所属していた少年野球チーム「高山メッツ」の監督。小指が欠損している。
里見祥子：演 - 藤澤志帆 (葵の高校教師)
小原健彦：演 - 中田裕一 (房子の再婚相手)
安岡太一：演 - 松角洋平
斉藤正子：演 - 後藤和歌奈

製作背景

本作は、岐阜県飛騨市を舞台としており、風光明媚な瀬戸川や白壁土蔵街などが重要なロケーションとして登場する。自主映画として製作され、外山監督は出演者一人ひとりに直接オファーし、彼らの協力を得て完成に至ったことを明かしている。

公開

『わさび』は、外山文治監督が同時期に手がけた他の短編作品、『春なれや』『此の岸のこと』と共に、「映画監督外山文治短編作品集」として劇場公開された。これは、日本の映画館において、単独の短編映画がまとめて商業公開される珍しい事例となった。

受賞

国際的な評価も得ており、2017年に開催されたロサンゼルス日本映画祭において、最優秀短編映画賞を受賞している。

ソフト化

2018年8月2日には、他の短編二作品と共にDVDおよびBlu-rayとして発売されている。特典映像としてメイキング映像や予告編が収録され、制作の舞台裏を知ることができるようになっている。

本作は、家族、夢、そして再生といった普遍的なテーマを扱いながら、地方都市の美しい風景を背景に、一人の少女が困難を乗り越え成長していく姿を丁寧に描き出している。希望と感動を与えるヒューマンドラマとして、観る者に深い余韻を残す作品である。

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