われらの世界

概要

『われらの世界』は、1967年6月25日から26日にかけて放送された、世界初の多元衛星中継によるテレビ番組です。イギリスのBBCをキーステーションとし、5大陸14か国の放送局が参加、4つの通信衛星を用いて世界24か国で同時中継されました。

当初、BBCはヨーロッパ放送連合（EBU）に対し、『80分世界一周旅行』というタイトルの紀行番組として提案していました。しかし、番組準備のためEBUスタッフがインドを訪れた際、深刻な人口問題と貧困、飢餓の現実を目の当たりにし、番組の企画を大幅に変更。タイトルも『われらの世界』と改められました。

この番組は、商業的なコマーシャルを一切入れないという方針のため、アメリカの三大ネットワークは参加を見送りました。代わりに、非営利の教育テレビ局であるNET（後のPBS）がアメリカからの参加局となりました。また、放送20日前の6月6日に第三次中東戦争が勃発。この影響で、ソ連をはじめとする東側諸国が参加を取りやめる事態となりました。ソ連のタス通信は、参加取りやめの理由として「西側諸国の一部がアラブ諸国を非難しており、『われらの世界』は人道主義的理想を失った」と発表しました。

日本からはNHKが参加し、1967年6月26日の午前3時55分から6時3分にかけて、NHK総合テレビで放送されました。日本での進行役は、当時NHKアナウンサーだった宮田輝が務めました。

参加放送局

BBC (イギリス)
NHK (日本)
NET (アメリカ)
その他11か国

番組テーマ

この番組は、以下の6つのテーマで構成されていました。

1. 赤ちゃん誕生
札幌の北海道大学病院での新生児の出産を皮切りに、デンマーク、メキシコ、カナダでも出産シーンが中継されました。

2. 世界のこの瞬間
オーストリアの製鉄所、パリのヘリコプターからの映像、チュニジアの首都チュニス、スペイン南部の漁港、米ソ首脳会談中のアメリカ、カナダの牧場、バンクーバーの海岸、東京の地下鉄工事現場、メルボルンなど、世界各地のリアルタイムな様子が中継されました。

3. 過密世界
ニューヨーク、キャンベラの食糧問題研究所、アメリカ中西部のウィスコンシン州、高松の海老養殖場、モントリオールの万国博覧会、スコットランドの農場など、人口過密や食糧問題に焦点を当てた中継が行われました。

4. 健全な肉体を求めて
当時のバタフライ世界記録保持者であるカナダのエレイン・タナー、イタリアの障害馬術選手兄弟、スウェーデンのカヌー選手による記録挑戦の様子、フランス沖での実験海中住宅の設置などが取り上げられました。

5. 芸術の追求
サン・ピエトロ大聖堂での映画撮影風景、バイロイト祝祭劇場でのオペラのリハーサル、フランスの美術館での芸術家たちの様子、メキシコシティでの音楽番組収録、ニューヨークでの著名な音楽家たちのリハーサル風景、そして、ビートルズによるレコーディングセッションが紹介されました。ビートルズは、この番組のために未発表曲「愛こそはすべて」を披露し、そのレコーディングにはフェデリコ・フェリーニ、ローリング・ストーンズのメンバー、エリック・クラプトンなど、多くの著名人が参加しました。

6. 宇宙のかなたへ
ケープ・カナベラル基地の様子や、オーストラリアの巨大電波望遠鏡などを紹介し、宇宙へのロマンを描いて番組は終了しました。

当初は「世界の食糧」というテーマも予定されていましたが、最終的には「過密世界」のテーマに組み込まれる形で放送されました。

参考文献

日本放送協会総合放送文化研究所 放送史編修室 編『NHK年鑑'68』日本放送出版協会、1968年
日本放送出版協会 編『「放送文化」誌に見る昭和放送史』日本放送出版協会、1990年
日本放送協会 編『20世紀放送史 上』日本放送出版協会、2001年
大村亨『「ビートルズ」と日本 ブラウン管の記録 - 出演から関連番組まで、日本のテレビが伝えたビートルズのすべて-』シンコーミュージック・エンタテイメント、2017年

外部リンク

* 宇宙中継　われらの世界 - NHK放送史

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