アイシロシ

アイシロシ（イトゥクパ）について

アイシロシ、あるいはイトゥクパとは、アイヌ民族が使用する鏃に刻まれた印のことを指します。この印は家紋としての機能を果たし、アイヌ文化における重要な役割を担っています。特に、狩猟生活を営むアイヌにとっては、獲物の所有権を明確にするための重要な目印となります。

アイシロシの目的

アイヌの狩猟法は、弓矢によるものであり、特にヒグマのような大型獣を対象にする場合、獲物が即死しないことも多々あります。獲物が射た地点から離れた場所で死亡するケースもあり、その場合、獲物の所有者を決定することが困難です。こうした状況において、アイシロシは獲物の所有権を明確にするための判定印としての役割を果たしていました。

例えば、ある場所で矢に刺さっている鹿が見つかったとします。その際、鹿に刻まれたアイシロシを見れば、それがどのアイヌの矢によるものかが分かり、勝手に獲物を自分のものとはしなかったと伝えられています。また、伝統的な神事であるイオマンテの際には、神様に捧げるイナウの先端にこのアイシロシを刻むことがあります。これにより、神前に捧げられる物にも特別な意味を持たせています。

家紋としての役割

アイシロシはまた、家紋としての役割もあります。例えば、北海道日高支庁の平取町に住むアイヌ文化の伝承者である萱野茂の祖先の伝承によると、かつて3人の兄弟がそれぞれ異なる場所に移住した際に、新しいアイシロシを考造することになりました。その際、海での漁生活も経験していたことから、シャチの背びれを模したデザインが選ばれました。長男は背びれの下に一本の線、次男は二本、三男は三本重ねるという異なるバリエーションが生まれました。彼らは、将来的に子孫にこの紋に出会った時、共通の先祖であることを認識し、助け合うことを誓ったとされています。

アイシロシの歴史は、兄弟が登場する以前から存在した可能性が高いと考えられています。具体的な時代は不明ですが、約300年前に萱野茂の祖先であるニベトランが沙流地方に城を構えたことから、アイシロシの家紋の歴史は少なくとも数百年にわたるものと推測されます。

このアイシロシは、男系で父から息子へ、そして孫息子へと受け継がれていきます。一方、アイヌの女性たちは、貞操帯の形状やその締め方を母から娘へ、さらに孫娘へと女系で伝承しています。こうした文化的な相違は、アイヌ社会の特徴とも言えます。

備考

アイヌの人々が器物に印をつける習慣がいつから始まったのかを知る手がかりとして、蠣崎氏の勝山館跡から出土した白磁皿の底にある線刻が挙げられます。これは15世紀後半から16世紀頃のもので、W字の上にV字を重ねたり、X字とW字を組み合わせた印が見つかっています。このような印は一種の所有権の標示であり、日本の大和民族における「家印」とも類似の文化です。この家印は、本家と分家、あるいは親と子の関係を示すために用いられます。

アイヌの歌人として知られる違星北斗の家系のアイシロシは、特異な形状を持ち、「×」の上下に点がある形や、「※」の左右の点を抜いた形をしていました。これが彼の姓「違星」の由来ともなり、文化的な意味を持つシンボルとして、今なおアイヌ文化の中で重要な位置を占めています。

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