アイドル・モーメンツ

ジャズ・ギター界の巨匠、グラント・グリーンがそのキャリアにおいて特に高く評価されるアルバムの一つが、1963年に録音され、1965年にブルーノート・レコードから発表された『アイドル・モーメンツ』（Idle Moments）です。

この作品は、グリーンのリーダーシップのもと、当時のジャズ・シーンで名を馳せていた精鋭たちが集結して制作されました。メンバーには、テナー・サクソフォーン奏者のジョー・ヘンダーソン、ピアニストのデューク・ピアソン（彼は本作のタイトル曲を含む複数の楽曲を提供しています）、ヴィブラフォン奏者のボビー・ハッチャーソン、ベーシストのボブ・クランショウ、そしてドラマーのアル・ヘアウッドといった面々が名を連ねています。この盤石の布陣が織りなすサウンドは、ハード・バップを基盤としながらも、一般的なハード・バップのイメージとは一線を画す、内省的で美しい響きを持っています。

アルバムに収録されているのは、タイトル曲「Idle Moments」、グリーンのオリジナル「Jean De Fleur」、モダン・ジャズ・カルテット（MJQ）のレパートリーとして知られるジョン・ルイス作曲の「Django」、そして再びデューク・ピアソン作曲の「Nomad」の4曲です。これらの楽曲は、いずれも比較的長尺であり、特にタイトル曲と「Nomad」は10分を超える演奏時間となっています。こうした構成は、当時のジャズアルバムとしては特徴的であり、ミュージシャンたちが各々のソロをじっくりと展開する余地を与えています。

制作に関する興味深いエピソードとして、このアルバムのレコーディングは1963年11月4日に行われました。当初のセッションで全4曲が録音されたのですが、サイドマンとして参加したピアソンの証言によれば、演奏時間がレーベルの想定よりも長くなったため、後日一部の楽曲が再録音されることになったと言われています。結果として、アルバムに収録されたテイクは、この慎重なプロセスを経て選び抜かれたものです。

『アイドル・モーメンツ』は、発表から時を経てもなお、多くの批評家やリスナーから高い評価を受け続けています。例えば、音楽評論家のスコット・ヤナウは、ハード・バップというジャンルを解説するコラムの中で、本作を「ハード・バップの名盤17選」の一つとして挙げています。また、オールミュージックのスティーヴ・ヒューイは、このアルバムに最高の5点満点を与え、「グリーンのハード・バップ・セッションの中では最高峰に位置し、最大限の表現力を示している」と絶賛しています。ヒューイは特に、グリーンが温かみのあるバラードからクールな演奏、さらにはテンポの速い曲まで、どのタイプの楽曲においても非常に優雅なギタープレイを披露している点を高く評価しています。

本作のサウンドは、グリーンの透明感のあるギターの音色を中心に、ヘンダーソンの情感豊かなテナー、ハッチャーソンの清涼なヴィブラフォンなどが溶け合い、瞑想的でありながらも芯のある響きを生み出しています。特に長い演奏時間を持つ楽曲においては、ミュージシャン同士のインタープレイが光り、静けさの中に豊かな音楽性が宿っています。

後年に再発されたCDの中には、オリジナルの4曲に加えて、「Jean De Fleur」と「Django」の別テイクがボーナス・トラックとして追加収録されているバージョンも存在し、当時のセッションの模様をより深く知ることができます。

『アイドル・モーメンツ』は、グラント・グリーンの代表作であると同時に、1960年代のブルーノートを象徴するアルバムの一つであり、ハード・バップの定義を広げるような静謐な美しさを湛えた傑作として、今なお多くのジャズファンに愛聴されています。

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