アイメリック・デ・ペギヤン

アイメリック・デ・ペギヤン

アイメリック・デ・ペギヤン（Aimeric de Peguilhan）は、おおよそ1170年頃に生まれ、1230年頃に生涯を終えたとされる中世プロヴァンスの吟遊詩人、すなわちトルバドゥールです。彼は、現在のフランス南西部、サン＝ゴーダンス近郊にあたるペギヤンという土地の出身でした。彼の父は衣服商を営んでおり、当時のトルバドゥールとしては比較的珍しい商家の出身であったことが知られています。その活動期間は1190年から1220年頃と推定されており、まさにプロヴァンス文学の黄金期に活躍しました。

彼は主に、当時のオクシタニア地方における文化的中心地の一つであったトゥールーズの有力者、トゥールーズ伯の庇護を受けながら創作活動を行いました。具体的には、文化を愛好したことで知られるレーモン5世、そしてその跡を継いだ息子レーモン6世の両伯爵に仕えた時期があったようです。庇護者を得ることは、中世の吟遊詩人が創作に専念し、その作品を広める上で不可欠な要素でした。

しかし、13世紀初頭に入ると、南フランスはカタリ派の弾圧を目的としたアルビジョア十字軍の侵攻という激動の時代を迎えます。この戦乱は、オクシタニア地方の政治的、社会的な構造を大きく変え、多くの貴族や文化人が困難な状況に追い込まれました。アイメリック・デ・ペギヤンもこの影響を受け、故郷を離れることを余儀なくされます。彼は南フランスを去り、その後およそ10年間にわたり、当時のイタリア北部の各地を転々としながら音楽活動を続けました。この時期のイタリアは、南フランスから逃れてきた多くのトルバドゥールを受け入れ、プロヴァンス詩歌が根付く場ともなっていました。

アイメリック・デ・ペギヤンは、非常に多作なトルバドゥールであったことが知られています。現在確認されているだけでも、彼の手による歌曲は少なくとも50曲に上るとされています。しかしながら、中世の歌曲はその音楽的な情報（旋律）が失われてしまうことが多く、彼の作品も例外ではありませんでした。現代にまで伝わり、その旋律が確認されているのは、彼の残した多数の作品のうち、わずか6曲に過ぎません。

これらの、旋律が現存する貴重な6曲は、彼の音楽スタイルや当時の演奏実践を知る上で極めて重要な資料となっています。そのタイトルは以下の通りです。

Atressi•m pren com fai al jogador
Cel que s'irais ni guerrej' ab amor
En Amor trop alques en que•m refraing
En greu pantais m'a tengut longamen
Per solatz d'autrui chan soven
Qui la vi, en ditz

アイメリック・デ・ペギヤンの作品は、騎士道的な恋愛（フィンス・アモール）を歌ったものや、当時の社会情勢を反映したものなど、多様なテーマを含んでいます。現存する限られた旋律は、彼の音楽が持つ魅力を現代に伝えており、中世ヨーロッパ音楽史研究において重要な位置を占めています。彼の生涯は、トルバドゥールという芸術家が時代の波に翻弄されつつも、その才能を開花させ、異なる土地へと音楽を伝播させていった歴史の一端を示していると言えるでしょう。

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