アイリーン・ダン

アイリーン・ダン

1898年12月20日、ケンタッキー州ルイビルに生まれたアイリーン・マリー・ダン（Irene Marie Dunn）は、後にアイリーン・ダン（Irene Dunne）としてハリウッドの黄金期を彩ったアメリカ合衆国の女優です。多才な彼女は、その長いキャリアを通じて、ミュージカルからシリアスドラマ、そして軽妙なスクリューボール・コメディまで、様々なジャンルの映画で観客を魅了しました。

彼女の芸術への道は、音楽から始まりました。シカゴ・ミュージカル・カレッジで学んだ後、音楽の才能を活かし、キャリア初期には地方で歌手として舞台に立ちました。やがて、より大きな舞台を目指して1923年にニューヨークへと移り、ブロードウェイで経験を積みます。

転機が訪れたのは1929年、ジェローム・カーン作曲の有名なミュージカル『ショウ・ボート』のヒロイン役に抜擢されたことです。この舞台での成功が、彼女を映画界へと導きました。その才能を認められたアイリーン・ダンは、RKO映画会社と契約を結び、1930年の映画『女護ヶ島上陸（Leathernecking）』でスクリーンデビューを飾ります。

映画界に入ってからの彼女は、その幅広い演技力と持ち前の歌唱力で瞬く間にスターの地位を確立しました。特に、1930年代から1940年代にかけては、数々のヒット作に出演し、その存在感を放ちます。1931年の西部劇大作『シマロン』での演技は高く評価され、これが彼女にとって最初のアカデミー主演女優賞ノミネートとなりました。

その後も、彼女は映画史にその名を刻む名演技を数多く見せます。情感あふれる演技で知られる『愛と光』（1935年）や、再び『ショウボート』（1936年）の映画版、都会的で洗練されたユーモアが光るスクリューボール・コメディの傑作『花嫁凱旋』（1936年）や『新婚道中記』（1937年）など、多様な役柄を演じ分けました。また、『邂逅』（1939年）や『ママの想い出』（1948年）といった作品でも重要な役を務めています。

これらの優れた演技により、彼女はアカデミー主演女優賞に計5度（『シマロン』、『花嫁凱旋』、『新婚道中記』、『邂逅』、『ママの想い出』）ノミネートされる栄誉に浴しましたが、残念ながら受賞には至りませんでした。しかし、これは彼女の才能と当時のハリウッドにおける評価の高さを物語っています。

1952年に映画界から引退した後も、彼女は活動を続け、テレビ番組などでその姿を見せました。また、社会的な活動にも積極的に関与し、特に政治への関心は高く、1957年には共和党代表として国連総会のアメリカ代表代理に選出されるなど、公的な役割も果たしています。

アイリーン・ダンは、1990年9月4日、カリフォルニア州ロサンゼルスの自宅にて、91年の生涯に幕を下ろしました。彼女の残した数々の作品は、今なお多くの映画ファンに愛され続けています。

主な出演作品の一部：

女護ヶ島上陸 (1930)
シマロン (1931) ※アカデミー主演女優賞候補
裏町 (1932)
愛と光 (1935)
ショウボート (1936)
花嫁凱旋 (1936) ※アカデミー主演女優賞候補
新婚道中記 (1937) ※アカデミー主演女優賞候補
邂逅 (1939) ※アカデミー主演女優賞候補
アンナとシャム王 (1946)
ママの想い出 (1948) ※アカデミー主演女優賞候補

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