スクリューボール・コメディ

スクリューボール・コメディ：ハリウッド黄金時代の軽妙洒脱な笑劇

1930年代初頭から1940年代にかけて、ハリウッドで一大ブームを巻き起こした「スクリューボール・コメディ」。このジャンルは、型破りなキャラクター、機知に富んだテンポの良い会話、そして予測不能な出来事が次々と起こる、予測不能で痛快な物語が特徴です。

トーキーとコメディの進化

サイレント映画時代のコメディは、スラップスティック・コメディが主流でした。しかし、トーキーの普及によって、会話を使ったユーモラスな表現が可能になり、コメディ映画は新たな進化を遂げます。1929年の世界恐慌による不況下、人々は娯楽を求めて映画館に足を運びました。ハリウッドは、人々を元気づける、忘れさせてくれるような作品が求められていたのです。

エルンスト・ルビッチ監督の『極楽特急』（1932年）は、洗練された会話劇で人気を博し、ロマンチック・コメディの新たな地平を切り開いた作品と言われています。この作品に続き、ルビッチ監督の『生活の設計』（1933年）、ビクター・フレミング監督の『爆弾の頬紅』（1933年）などが、ロマンスとコメディを融合させた新しいスタイルを確立しました。

キャプラと『或る夜の出来事』の成功

フランク・キャプラ監督の『或る夜の出来事』（1934年）は、スクリューボール・コメディを決定づけた作品とされています。大富豪の娘と新聞記者の逃避行と恋物語は、当時としては革新的なものでした。低予算作品ながら大ヒットを記録し、アカデミー賞を独占する快挙を成し遂げ、コロンビア・ピクチャーズはスクリューボール・コメディ制作に力を入れるようになります。
身分違いの恋、スピード感溢れる展開、自立した女性像など、『或る夜の出来事』で描かれた要素は、後のラブ・コメディにも多大な影響を与えました。

ブロードウェイからの才能

1930年代後半には、ブロードウェイで活躍した脚本家プレストン・スタージェスがハリウッドに進出し、キャプラに続くスクリューボール・コメディの巨匠となります。彼の『サリヴァンの旅』（1941年）、『レディ・イヴ』（1941年）は、特に高い評価を得ました。

他にも、ハワード・ホークスの『赤ちゃん教育』（1938年）、『教授と美女』（1941年）、ビリー・ワイルダーが脚本を担当したルビッチの『ニノチカ』（1939年）など、多くの傑作が誕生しました。スクリューボール・コメディは、1930年代半ばから1940年代末までに200本以上製作されたと言われています。

隆盛と衰退の背景

スクリューボール・コメディの隆盛と衰退には諸説あります。一説には、1930年代のヘイズ・コード（自主規制コード）が、セックスを正面から描くことを禁じたため、監督たちが恋愛表現を工夫した結果、このジャンルが生まれたという説があります。しかし、最近の研究ではヘイズ・コードの影響は限定的だったという見方が主流です。

現在では、1929年の世界恐慌による社会情勢が、このジャンルの誕生に大きく影響したという見方が有力です。娯楽の需要の高まりを受け、映画は細分化され、スクリューボール・コメディもその一つとして登場したのです。

スクリューボール・コメディに登場する女性たちは、自立した強い女性像として描かれることが多く、これは当時女性の社会進出が進んでいた現実を反映していると言われています。

1950年代に入ると、スクリューボール・コメディは衰退します。身分違いの恋というテーマが、経済格差の深まりとともに現実味を失い、ハリウッドは中産階級内の恋愛を描いたシンプルなラブコメディへとシフトしていったことが原因の一つです。しかし、ハワード・ホークスの『モンキー・ビジネス』（1952年）、ビリー・ワイルダーの『麗しのサブリナ』（1954年）などは、スクリューボール・コメディの手法を受け継いでいます。

代表的な作品

スクリューボール・コメディの定義は曖昧で、どの作品を代表作とするかは意見が分かれます。しかし、英国映画協会は、代表作として以下のような10作品を選出しています。（※ここでは割愛）

現代への影響

スクリューボール・コメディは、現代においては「スクリューボール」と銘打って作られることは少ないですが、軽快なテンポと機知に富んだ会話、そしてロマンスを特徴とするラブコメディを形容する際に、映画批評などで使われることがあります。このジャンルは、アメリカ映画史に大きな足跡を残し、現代の映画にも大きな影響を与え続けているのです。

参考文献

Beach, C. (2002). Class, language, and American film comedy. Cambridge; New York: Cambridge University Press.
Cavell, S. (1981). Pursuits of happiness: the Hollywood comedy of remarriage. Cambridge, Mass.: Harvard University Press.
Dale, A. S. (2000). Comedy is a man in trouble: slapstick in American movies. Minneapolis: University of Minnesota Press.
Horton, A., and Rapf, J. E. (2012). A companion to film comedy. Malden, MA: Wiley-Blackwell.

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