アイ・アム I am.

『アイ・アム I am.』は、日本のSF作家・菅浩江が手がけた小説であり、また同作を原案として制作された日本映画のタイトルです。小説は文庫書き下ろしとして発表されましたが、映画版は小説から一部設定を引き継ぎつつも、ストーリー展開や内容は大きく異なる独自のアプローチが取られています。

映画版の概要

映画は石侍露堂が監督を務め、2008年に製作されました。2010年 1月23日より「シアター・イメージフォーラム」にて一般公開されています。

物語の中心となるのは、病院の研究室で医師であり研究者でもある江成瑞恵によって開発された、高度な人工知能を備える介護ロボット「ミキ」です。人間と見紛うほど精巧な外見を持ち、確かな介護能力を持つミキは、病院に入院する様々な患者たちのケアを担当することになります。

しかし、かつて同じ病院で稼働していた別の介護ロボット「ジロー」が暴走した過去があり、院内の人々、特に患者や介護士の間ではミキに対する評価が割れていました。先輩介護士の樋野裕子はミキに友好的に接し、命の重さを説きますが、同じく先輩である羽月和はジローの一件でロボットを信用しておらず、ミキに対して冷たい態度を取ります。一方、ベテラン介護士の永田浩司はムードメーカーとしてミキにも好意的に接します。病院には、医療機器に繋がれた田辺光一郎、手足が不自由な小学生のまさる、元プロサッカー選手の川尻周といった個性豊かな患者たちが生活しており、ミキは彼らとの触れ合いを通じて、新しい知識や感情を学んでいきます。その過程で、ミキは自身の存在意義、すなわち「本当の自分」とは何なのかを探求し始めます。

ある日、ミキの顔に水がかかるアクシデントが発生し、その衝撃で彼女の記憶回路に断片的な映像や聞き覚えのない声がフラッシュバックします。自身の過去、あるいはロボットとして生まれる前の存在に関わる映像ではないかと考えたミキは、自らの起源について強い関心を抱くようになります。また、介護を通じて患者たちが抱える苦悩や、彼らが向き合う「生」と「死」という根源的なテーマに触れる中で、ミキ自身も生命について深く悩み始めます。開発者である瑞恵にその悩みを打ち明けますが、「今を精一杯生きること」という瑞恵の言葉は、感情を持たないロボットであるミキには完全には理解できませんでした。

様々な思いを抱えたまま、ミキは患者の入浴介助を行います。しかし、その最中に誤って浴槽へ倒れ込み、回路がショートしてしまう事態に陥ります。瑞恵の迅速な処置によってミキは機能回復を果たしますが、この出来事の後、彼女の振る舞いには以前よりも人間らしい感情や反応が感じられるようになります。

そんな折、ミキは患者のまさるが「ジローは猿の頭脳を元に造られたらしい」と話しているのを偶然耳にします。衝撃を受けたミキは、瑞恵の夫であり病院を運営する江成一信にその真偽を確かめます。一信はジローが実際にチンパンジーの脳を基に開発された事実を認め、自身も同類ではないかと考えたミキは愕然とします。

後日、ミキは偶然再会した瑞恵の知人から、久々の再会を喜ばれますが、ミキにはその人物の記憶が全くありませんでした。自身のルーツに関する謎が深まる中で、真実を求め続けるミキは、ついに瑞恵から衝撃的な告白を受けます。それは、ミキの核となるシステムが、瑞恵と一信がかつて亡くした愛娘、美希のパーソナリティや記憶を基に開発されたものである、という事実でした。

主な登場人物・キャスト

ミキ（江成美希）：水川あさみ
病院で働く高性能介護ロボット。精巧な作りだが感情表現に乏しい。自身の出自を探求する。
江成一信：長谷川初範
美希の父で医師。妻・瑞恵と共に病院を経営。穏やかな性格でミキに優しく接する。
江成瑞恵：酒井和歌子
美希の母で医師、ロボット研究者。亡き娘・美希をモデルにミキを開発した。
樋野裕子：佳村さちか
ミキの先輩介護士。ミキに助けられた経験があり、彼女を信頼する。命の尊さをミキに教える。
羽月和：菜葉菜
ミキの先輩介護士。過去の経験からロボットに懐疑的。患者のまさるを気にかける。
永田浩司：泉谷しげる
ベテラン介護士。おどけた性格のムードメーカー。ミキに対して好意的。
川尻周：柏原収史
車いすの患者。元プロサッカー選手。江成美希を知る人物。ミキとの関係を知ることに躊躇する。
田辺光一郎：村田雄浩
首から下が動かない患者。元医師。「機械の体」と自身を比喩し、ミキに共感する。
まさる
10歳の少年患者。手足に補助器具が必要。ジローの件についてミキに話す。

その他、ミキが担当する様々な患者や、まさるの母、事件を捜査する刑事などが登場し、物語に深みを与えています。

スタッフ

監督：石侍露堂
脚本：門馬隆司、石侍露堂
製作総指揮：村上匡宏
撮影監督：安田光
音楽：中村彩子
* 主題歌：レイ・ハラカミ
ほか

この映画は、人工知能が人間らしさやアイデンティティを模索する過程を通じて、人間そのものの存在や感情、そして生と死の意味を問いかける作品となっています。

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