アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック

ウェザー・リポート『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』

ウェザー・リポートが1972年に発表したセカンド・アルバム『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』は、バンドがその独自の音楽性を確立していく過程を示す重要な作品である。前作『ウェザー・リポート』で静謐かつ革新的なサウンドを提示した彼らは、本作において新たなメンバーを迎え入れ、その音楽の幅を一層広げている。

新たなサウンドの核

本作の制作にあたり、ウェザー・リポートには二人の新メンバーが加わった。一人は卓越したパーカッショニスト、ドン・ウン・ロマンであり、もう一人はパワフルなドラマー、エリック・グラヴァットである。オリジナル・メンバーであるウェイン・ショーター（テナー・サックス、ソプラノ・サックス）、ジョー・ザヴィヌル（エレクトリック・ピアノ、アコースティック・ピアノ、アープ2600シンセサイザー）、ミロスラフ・ヴィトウス（エレクトリック・ベース、アコースティック・ベース）に、彼ら二人が加わることで、バンドのアンサンブルはよりダイナミックかつリズミカルな深みを増した。特にグラヴァットのドラムは、それまでのウェザー・リポートにはなかった推進力をサウンドにもたらしている。

印象的なライブ録音

アルバム後半を締めくくる3曲（トラック5から7）は、スタジオ録音ではなく、1972年1月13日に日本の東京で行われたライブ・パフォーマンスを収録したものである。これらのライブ音源は、当時のウェザー・リポートがステージ上で展開していた即興性とエネルギーを垣間見せる貴重な記録となっている。ただし、本作に収録された音源はアルバムの構成に合わせて編集が施されており、ライブの実際の演奏全てを収めたものではない。この日のコンサートのより完全な記録は、翌年の1973年に発表されたライブ・アルバム『ライヴ・イン・トーキョー』で聴くことができるため、両作を聴き比べることで、当時のバンドの息遣いをより深く感じ取ることができるだろう。

タイトルの背景

アルバム・タイトルである『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』は、二つの文学作品からインスピレーションを得ている。一つは、19世紀アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンが1855年に発表した代表作『草の葉』に収められた詩「ぼくは充電されたからだを歌う (I Sing the Body Electric)」である。もう一つは、著名なSF作家レイ・ブラッドベリが1969年に発表した短編小説集の表題作、あるいは短編自体のタイトル「歌おう、感電するほどの喜びを！ (I Sing the Body Electric)」である。ブラッドベリの短編タイトルもまたホイットマンの詩に由来しており、ウェザー・リポートはこの二つの文学作品が持つイメージやテーマを、その音楽に投影しようとしたと考えられる。

参加ミュージシャン

本作のレコーディングには、コアメンバーに加えて複数のゲスト・ミュージシャンが参加し、サウンドに彩りを添えている。主な参加メンバーは以下の通りである。

ウェイン・ショーター - テナーサックス、ソプラノサックス
ジョー・ザヴィヌル - エレクトリックピアノ、アコースティックピアノ、アープ2600シンセサイザー
ミロスラフ・ヴィトウス - エレクトリックベース、アコースティックベース
エリック・グラヴァット - ドラム
ドン・ウン・ロマン - パーカッション

ゲスト・ミュージシャン：

アンドリュー・ホワイト - イングリッシュホルン
ヒューバート・ロウズ - フルート
ウィルマー・ワイズ - Dトランペット、ピッコロ・トランペット
ラルフ・タウナー - 12弦ギター
ヨランデ・バヴァン - ボーカル
ジョシー・アームストロング - ボーカル
チャップマン・ロバーツ - ボーカル

『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』は、ウェザー・リポートが初期の探求的なサウンドから、より力強く多様な表現へと移行する過程を捉えた作品であり、後のフュージョン・サウンドの隆盛を予感させる重要なアルバムである。

もう一度検索