アウグストゥス (称号)

ローマ皇帝の称号「アウグストゥス」：威厳と権力の歴史

「アウグストゥス (Augustus)」は、ラテン語で「威厳ある」「尊厳ある」を意味する言葉であり、歴代のローマ皇帝の称号として知られています。特に初代ローマ皇帝アウグストゥス（オクタウィアヌス）を指すことが多いですが、その後もローマ皇帝の最高位を示す称号として用いられました。ローマ帝国崩壊後も、特にヨーロッパでは、貴族の男性名として使われるなど、その影響は長く続きました。女性形は「アウグスタ (Augusta)」です。

アウグストゥスの称号とローマ皇帝

アウグストゥスの称号を名乗ることが、ローマ皇帝就任とイコールであると誤解されることがありますが、これは正しくありません。アウグストゥスは重要な称号ではありましたが、3世紀のディオクレティアヌス帝以前は、法的には特別な権限や地位を意味するものではありませんでした。

「ローマ皇帝」という職位は、単一の役職ではなく、多数の職位を一人に集中させた状態を指します。アウグストゥスは、これら多くの権力を掌握した人物を指し示す称号だったのです。

初代アウグストゥスであるガイウス・ユリアス・カエサル・オクタウィアヌスは、紀元前27年1月16日、元老院からこの称号を授与され、「インペラトル・カエサル・アウグストゥス (Imperator Caesar Augustus)」と改名しました。その後40年間、彼は様々な公職や権力を掌握し、自身の特別な地位を確立することで、後のローマ皇帝のモデルを築きました。

オクタウィアヌスは、ローマ皇帝の称号の慣習も定めました。歴代のローマ皇帝は「インペラトル」「カエサル」「アウグストゥス」の3つの称号を名乗りましたが、「インペラトル」は他の者も使用可能であり、「カエサル」はユリウス氏族の氏名であるため、ローマ皇帝だけが専有する称号は「アウグストゥス」のみでした（ただし、皇帝の母や妻は「アウグスタ」を名乗ることがありました）。

このように、「ローマ皇帝」という単独の公職は存在せず、オクタウィアヌスによって全権力を掌握する最高権力者としてのローマ皇帝の地位が確立され、「アウグストゥス」は法律上は特別な意味を持たないものの、ローマ皇帝を象徴する称号となったのです。

皇帝一門の女性の称号：アウグスタ

「アウグスタ」はアウグストゥスの女性形で、皇帝一族の女性にのみ与えられる特別な称号でした。女性にとってこれ以上の称号はなく、神に匹敵するような地位を意味しました。

初めてアウグスタを名乗ったのは、初代皇帝アウグストゥスの妻リウィア・ドルシッラです。夫の遺言により称号を得た彼女は、ユリア・アウグスタとしても知られています。オクタウィアヌスがアウグストゥスの称号のモデルとなったように、リウィアは後の女性たちがアウグスタを名乗る際のモデルとなりました。

小アグリッピナも、夫クラウディウス帝の権威によりアウグスタの称号を得ました。彼女は息子ネロを皇帝にしましたが、後にネロによって暗殺されるという悲劇的な最期を迎えました。リウィアも、息子ティベリウスを皇帝にしたものの、晩年は不遇を極めたと言われています。

ローマ帝国分割の時代

3世紀、ディオクレティアヌス帝によるテトラルキア（四分統治）の導入により、ローマ帝国は東西に分裂し、東西それぞれに正帝と副帝が置かれました。「アウグストゥス」は正帝の称号、「カエサル」は副帝の称号と定められました。

東ローマ帝国では、ギリシア語圏を主な領土としたため、7世紀以降は皇帝の称号がギリシア語に置き換えられました。「インペラトル」は「アウトクラトール」、「カエサル」は「カイサル」、「アウグストゥス」は「アウグストス」または「セバストス」となり、「バシレウス」(王)も称号として用いられるようになりました。これらのギリシア語化した称号は、1453年の東ローマ帝国滅亡まで使用されましたが、11世紀以降は「カイサル」や「セバストス」は皇帝以外の者も使用できる称号になりました。

神聖ローマ帝国

神聖ローマ帝国では、ラテン語称号は「インペラトル・アウグストゥス」、ドイツ語称号は「カイザー (Kaiser)」でした。

これらの歴史的変遷を通して、「アウグストゥス」という称号が、単なる呼び名を超え、ローマ帝国の権力と威信を象徴する重要な存在であったことがわかります。

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