アウグスト・ザムエル・ワーレン

アウグスト・ザムエル・ワーレンは、田中芳樹のSF小説『銀河英雄伝説』に登場する銀河帝国の主要人物です。作中では主に「ワーレン」と呼ばれています。

概要

ワーレンは、ローエングラム陣営の主要提督の一人であり、後に「獅子の泉の七元帥」に列せられます。その剛毅な性格と、部下からの人望も厚い用兵家として知られています。愛用の旗艦は「サラマンドル（火竜）」です。

経歴

本編での初登場は、ラインハルトが元帥府を設立する際に艦隊司令官の一人として登用された時で、当時の階級は中将でした。その後、数々の武勲を重ね、物語の終盤までラインハルト陣営の将帥として活躍します。

時系列上では、OVA外伝「奪還者」が初登場となります。この時、ワーレンは少佐であり、中佐時代のラインハルトが艦長を務めた巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンの副長として活躍しました。

同盟の帝国領侵攻作戦時には、ルフェーブル中将指揮下の第三艦隊を急襲し、その後のアムリッツァ会戦では、ルッツと共にキルヒアイスの指揮下で機雷原を無力化し、同盟軍の後背を突くという勝敗を決定づける働きを見せました。リップシュタット戦役でも、引き続きルッツと共にキルヒアイス配下の提督として別働隊の副司令官を務め、辺境の各星域を平定し、キフォイザー星域の戦いでも勝利に貢献しました。

ラインハルトが帝国の支配権を得ると、大将に昇進。神々の黄昏作戦では、フェザーン方面の最後尾、第五陣を指揮しました。第一次ランテマリオ会戦では、同盟軍右翼のデュドネイ分艦隊を壊滅させ、同盟艦隊の分断を図ります。その後、同盟がモートン中将の加勢で戦線を修復すると、無理な攻勢を避け、戦力の削り取りに徹しました。ヤン・ウェンリーの奇襲への対応策として補給基地の襲撃を任されますが、ヤンの奇策に嵌り、自身の艦隊に大きな損害を出してしまいます。しかし、退却しながらも自艦隊の全面壊走を防ぎ、同時にヤン艦隊の動向を把握するという功績を立てました。

ローエングラム朝が成立すると、上級大将に昇進。名誉挽回の機会として地球教討伐を命じられます。太陽系に到達した時点で催行された作戦会議の直後、艦橋に潜入した地球教のテロリストに毒を塗ったナイフで襲われ、刺された左腕の肘から下を失い、以降は義手を使用しています。討伐作戦中には、「現地での協力者」としてユリアン・ミンツ一行と知り合いますが、この時ユリアンは「フェザーンの商人」と名乗っていたため、その時点では彼の素性を知りませんでした（シヴァ星域の戦いが終了した後、イゼルローン軍の処遇に関する交渉時に改めて顔を合わせることになります）。

負傷療養のため同盟再侵攻には参加せず、療養後イゼルローン要塞をヤンに再奪取されたルッツと交代するように進発。イゼルローン回廊における戦いでは、惑星ハイネセンとイゼルローン回廊の中間点で予備兵力として15200隻を指揮しました。ロイエンタールの叛乱に際しては、ビッテンフェルトと共にミッターマイヤーの両翼を固めて出陣し、鎮圧に貢献。終結後は、ハイネセンに残留して駐留軍の指揮統率の任に当たっています。

第11次イゼルローン要塞攻防戦では、ヴァーゲンザイルと協調してイゼルローン要塞を挟撃しようとしましたが、イゼルローン革命軍司令官ユリアン・ミンツの作戦とヴァーゲンザイル艦隊の壊走により失敗。ヴァーゲンザイル艦隊の脱出を援護するために踏みとどまりますが、死角に潜んでいたメルカッツ艦隊の攻撃と要塞主砲トゥールハンマーを受けて敗走します。続くシヴァ星域の戦いには、第11次イゼルローン攻防戦で受けた損耗を回復しきれず、参加していません。

能力

OVA版でラインハルトの副長を務めた際には、「独創性はあまり無いが与えられた命令を確実にこなす能力の持ち主」としてラインハルトから高く評価されていました。艦内の演習でキルヒアイスと白兵戦を行い、キルヒアイスがラインハルトに気を取られた僅かな隙を逃さず勝利しています。また、ヘルクスハイマー伯爵によって持ち出された、ゼッフル粒子発生装置の試作機を回収する極秘任務を遂行するため、艦長であるラインハルトがイゼルローン回廊を突破して同盟領へ進入する際に用いた策を見て、ラインハルトが只者ではない人物である事を見抜く描写があります。

ヤン・ウェンリーとユリアン・ミンツに一度ずつ敗れていますが、総合的には堅実な用兵巧者であり、戦術的能力のある名将と言えるでしょう。ヒルダは、後進が手本とすべき人物として、ミュラーと共にワーレンの名を挙げています。地球教討伐の際には司令官として責務を果たし、第二次ランテマリオ会戦ではロイエンタール軍の猛攻撃に旗艦が被弾しながらも耐え、反撃しています。

第11次イゼルローン攻防戦における敗北は、イゼルローン革命軍司令官ユリアン・ミンツの作戦の妙もさることながら、ミッターマイヤー等による後日の検証によって、帝国領側から進撃したヴァーゲンザイル艦隊の友軍に対する配慮の欠落に大きな責任があると結論づけられています。

地球教討伐作戦の際、当初ビッテンフェルトが志願したものの「辺境惑星の鎮圧に黒色槍騎兵隊を動かしては、帝国軍の鼎の軽重を問われる」として却下され、ワーレンが抜擢されたという経緯があります。この発言はワーレンがビッテンフェルトより劣っているかの様にも解釈できますが、アニメ版においては、ワーレン艦隊の発進を見送ったミッターマイヤーが「これはラグナロック作戦でヤンに敗北した3提督（ワーレン、シュタインメッツ、レンネンカンプ）のうち、まだ名誉回復の機会を得ていなかったワーレンへの配慮であろう」という意味の発言をミュラーに言っており、ビッテンフェルトの志願を却下するにあたっての社交辞令と思われます。

人柄

基本的には温和な紳士であり、ラインハルトに対しても忠誠心が厚いです。第2次ランテマリオ会戦にて旗艦が被弾して義手を吹き飛ばされた際、うろたえる部下を叱咤して的確に指揮を執り続けたり、ラインハルトが崩御する直前、癇癪を起こしたビッテンフェルトと掴み合いの喧嘩寸前の状態になったり、オーベルシュタインの草刈に端を発するハイネセンでの帝国軍内部対立の際には、装甲車の上に一人座って睨みひとつで両陣営を静めるなど、剛毅にして勇猛な性格を示しています。その一方で、ビッテンフェルトとオーベルシュタインを止める際に「義手の故障のせいにして軍務尚書を殴ろうか」と幕僚にジョークを飛ばしたり、地球教討伐作戦の折、幕僚に「いいアイディアを出した者に賞品としてワインを出すぞ」と申し出たりと、気さくな一面も見せています。

家族

27歳で結婚。翌年男子が生まれたが、この時妻が難産で死亡しています。生まれた息子は、職務のため父母に預けてあり、あまり顔を合わす事が出来ずにいます。

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