アウディ・RS Q e-tron

アウディRS Q e-tron：電動化によるラリーレイドへの挑戦

ドイツの自動車メーカー、アウディは、モータースポーツへの取り組みとして、2022年からダカール・ラリーにワークス参戦を開始しました。そのために開発されたのが、シリーズ式ハイブリッドのレーシングバギー、RS Q e-tronです。DTMやフォーミュラEからの撤退を発表したアウディにとって、このダカール・ラリー参戦は、電動化技術を極限の環境で実証する、新たな挑戦となりました。

開発と技術：革新的なハイブリッドシステム

RS Q e-tronは、純粋なプロトタイプ車両として開発されました。市販車をベースとしない、ラリーレイド参戦メーカーのワークスチームマシンとしては非常に珍しい存在です。そのパワートレインは、発電用のガソリンターボエンジンと、前後2基のモーター、そしてエネルギーコンバーターとしてのMGUを組み合わせた、シリーズ式ハイブリッドシステムです。DTMで使用したエンジンを発電に、フォーミュラEで培った技術を駆動に生かす、アウディの技術の粋を集めた一台と言えるでしょう。

駆動は電気モーターのみで行われ、前後車軸は機械的には接続されていません。ソフトウェア制御によるバーチャルセンターデフが前後トルク配分を制御し、プロペラシャフトや機械式デフを省略することで軽量化と効率化を実現しています。トランスミッションは1速のみとシンプルで、ギアチェンジの手間もありません。燃料には2023年からバイオ燃料を採用し、二酸化炭素排出量を60%削減しています。

2022年末には空力性能や軽量化、ドライバーの快適性などを向上させた改良型「RS Q e-tron E2」が投入されました。グループB時代のマシン名を受け継いだこのモデルは、最低重量2100kgに合わせて軽量化が図られましたが、出力はレギュレーション変更により調整されています。

戦歴：激闘と課題

2022年のダカール・ラリーには、カルロス・サインツ、ステファン・ペテランセル、マティアス・エクストロームというレジェンドドライバー3名が参戦しました。高いポテンシャルを見せつけながらも、メカニカルトラブルやナビゲーションミス、重量オーバーによる不利なレギュレーションなど、数々の困難に直面しました。それでもアブダビ・デザート・チャレンジで電動車両として初のラリーレイド優勝を飾るなど、結果を残しました。

2023年も同じドライバー陣で参戦したものの、メカニカルトラブルは依然として課題でした。3台全てが完走した前年とは異なり、今年は複数の車両がリタイアという結果に終わりました。 EOT（エネルギー・オブ・トラクション）の介入による出力向上についても、誤解から批判を受けるなど、困難なシーズンとなりました。W2RC(世界ラリーレイド選手権)への参戦戦略も、チーム内での意見の相違が垣間見えるなど、課題は山積していました。

2024年ダカールラリーでは、アウディのF1参戦に向けた体制変更に伴い、チームは撤退を表明しました。しかし、最後の挑戦となったこのレースで、サインツが総合優勝を果たし、アウディにとってダカール初優勝、そして電動車両によるダカール制覇という歴史的偉業を達成しました。 ペテランセルとエクストロームも、それぞれ活躍を見せました。しかし、その後アウディはラリーレイドプログラムの終了を発表、パーツ供給や消耗の激しさなどが理由として挙げられました。

まとめ：電動化とラリーレイドの未来

アウディRS Q e-tronは、電動化技術とラリーレイドという過酷な環境が融合した、挑戦的なプロジェクトでした。その挑戦は、成功と苦闘を繰り返しながら、電動化によるモータースポーツの新たな可能性を示したと言えるでしょう。将来、他のメーカーが電動車両によるラリーレイド参戦を本格化させる契機となる可能性を秘めています。 アウディが築き上げた技術や経験は、今後の電動化技術開発において貴重な財産となるでしょう。そして、RS Q e-tronは、モータースポーツの歴史に新たな1ページを刻んだと言えるでしょう。

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