アウデナールデの戦い

アウデナールデの戦い：1708年、スペイン継承戦争の転換点

アウデナールデの戦いは、スペイン継承戦争における重要な戦闘の一つであり、1708年7月11日に現在のベルギー、オースト＝フランデレン州アウデナールデ近郊で繰り広げられました。グレートブリテン王国（イギリス）、オーストリア（神聖ローマ帝国）、ネーデルラント連邦共和国（オランダ）の同盟軍と、フランス軍が激突し、戦局を大きく左右する結果となりました。

戦闘前の状況

1707年までの戦況は、同盟側がやや優勢でした。1706年のラミイの戦いで、イギリス軍司令官マールバラ公ジョン・チャーチルがフランス軍に大勝し、南ネーデルラント（ベルギー）を平定。プリンツ・オイゲンもトリノの戦いで北イタリアを解放し、1707年にはオーストリア軍がナポリを手に入れるなど、同盟側が着実に戦果を上げていました。

しかし、スペインではフランス側のベリック公がアルマンサの戦いで同盟軍を破り、ドイツではヴィラール公がシュトルホーフェンを陥落させるなど、同盟側にも危機が訪れていました。ネーデルラントでは、マールバラ公とフランスのヴァンドーム公が対峙していましたが、互いに決戦を避け、戦線は膠着状態に陥っていました。

イギリス・ドイツ軍の合流

1708年、戦況を打開するため、オイゲンはハノーファーでゲオルク・ルートヴィヒと会談し、モーゼル川方面での軍の編成許可を求めました。当初、ゲオルク・ルートヴィヒは難色を示しましたが、最終的にはマールバラ公の説得もあり、コブレンツでの軍の集合が決定しました。一方、フランス軍ではヴィラールが左遷され、ベリックがマクシミリアン2世の補佐役としてライン川方面を担当することになりました。ネーデルラント戦線では、ルイ14世の孫であるブルゴーニュ公ルイが指揮を執り、ヴァンドームが補佐役を務めました。

5月、フランス軍はモンスからブリュッセルを目指して北進を開始。マールバラ公がハレに進軍すると、フランス軍はジュナップに移動し、ルーヴェンを伺う展開となりました。オイゲンはコブレンツで兵を募りましたが、思うように集まらず、6月下旬までずれ込むことになりました。7月4日、フランス軍はヘントに向かい、ブルッヘを攻め落としました。この結果、レイエ川流域から運河に至る地域がフランス軍の支配下に入りました。

マールバラ公は事態を重く見ていましたが、オイゲンの到着により、ヘント付近のフランス軍を撃破する戦略を確認しました。このまま放置すれば、スヘルデ川流域の他の都市もフランス軍に占領され、ネーデルラント西部がフランスに制圧される可能性があったからです。

短期間の進軍

7月8日、フランス軍がレシーヌを狙っていることを知ったマールバラ公らは、翌9日午前2時に西進を開始。10日にはレシーヌに到着し、フランス軍の占領を防ぎました。フランス軍は北に方向転換し、ハーヴェレ手前で野営。アウデナールデを攻める方針でしたが、同盟軍が先に到着しました。

マールバラ公はフランス軍がスヘルデ川東岸にいることを知ると、急いでアウデナールデに向かい、11日午前10時半に先鋒隊が到着。正午前にスヘルデ川に舟橋を架けて渡河し、フルネ村・エイネ村でフランス軍の先鋒と衝突しました。

戦闘の経過

13時過ぎ、フランス軍先鋒はエイネの前でイギリス軍歩兵隊を発見し、交戦を開始しました。カドガンは歩兵隊を率いてディーペンベック川を渡り、フランス軍先鋒を撃破。ハノーファー騎兵隊もヘント方面のフランス騎兵隊を破り、プロイセン騎兵隊と共に街道に対陣しました。この戦いが初陣であったハノーファー騎兵隊は、ゲオルク・アウグスト（後のジョージ2世）が率いていました。

一方、フランス軍本隊は街道北の交差点付近に陣取りましたが、確保に時間がかかり、同盟軍先鋒を叩くチャンスを逃しました。ヴァンドームは陣地で待機すべきだと進言しましたが、ブルゴーニュ公は聞き入れず、攻撃を命令。右翼がカドガンの軍を攻撃しました。カドガンはハノーファー騎兵隊を街道に残し、自らは街道左に移動してフランス軍を迎え撃ちました。

ヴァンドームは右翼を率いてカドガンと激突し、歩兵同士の激戦となりました。ブルゴーニュ公は傍観し、ヴァンドームに助力しようとしませんでした。やがて同盟軍本隊もアウデナールデに到着し、ヴァンドーム率いる右翼と交戦。マールバラ公は集結した軍勢をオイゲンに任せ、自らは左翼に移動して指揮を執りました。

勝機を待っていたマールバラ公は、アウウェルケルク卿がオランダ軍を連れてアウデナールデを通りスヘルデ川を渡ったのを確認すると、オランダ軍を街道を通らせ、高台からの急襲を計画。7時から8時の間にオランダ軍は高台から駆け下りて突撃し、ブルゴーニュ公の本陣を急襲しました。この襲撃でフランス軍は包囲され、夜に紛れてヘントに逃げました。同盟軍の死傷者は3000人、フランス軍の死傷者は6000人、降伏した9000人も合わせて損失は15000人に達しました。

戦後

同盟軍は戦後休息を取り、ドイツ軍を迎えた後、ネーデルラント西部へ進撃し、メーネン・ウィルヴィクを確保。リール包囲に取り掛かりました。マールバラ公はパリへ進撃しようと考えていましたが、オランダやオイゲンの反対により撤回し、リールの奪取に回りました。一方、ライン川からネーデルラントに到着したベリックはドゥエーに布陣しましたが、同盟軍の勢いを前に攻撃に移ることができませんでした。アウデナールデの戦いの敗北は、ヴァンドームとブルゴーニュ公の仲を完全に決裂させることになりました。

攻城兵器がリールに届き、リール包囲戦が開始されました。この戦いの後、同盟軍は着実にフランス軍を追い詰めていくことになります。

参考文献
友清理士『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史』彩流社、2007年。
デレック・マッケイ著、瀬原義生訳『プリンツ・オイゲン・フォン・サヴォア-興隆期ハプスブルク帝国を支えた男-』文理閣、2010年。

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