アウルス・ウィテッリウス

アウルス・ウィテッリウス・ゲルマニクス：短命なローマ皇帝の生涯

アウルス・ウィテッリウス・ゲルマニクス(15年9月7日または24日 - 69年12月20日)は、ローマ帝国の皇帝として知られる人物です。69年、内乱の渦中、わずか8ヶ月間の在位期間でその生涯を終えました。彼の治世は「四皇帝の年」と呼ばれる混乱の時代の一端を担っており、その短く華々しくない、そして悲劇的な皇帝としての物語は、今も人々の関心を惹きつけます。

ウィテッリウスは、3度に渡り執政官を務めた高官ルキウス・ウィテッリウスの子として生まれました。裕福な家庭環境で育ち、カリグラ、クラウディウス、ネロといった歴代の皇帝からの信頼を得て、順調に出世の階段を上っていきました。執政官やアフリカ属州総督といった要職を歴任し、ローマ社会における高い地位を確立していました。

しかし、彼の運命は68年に転換点を迎えます。ガルバが皇帝の座に就くと、ウィテッリウスはゲルマニア・インフェリオル軍団司令官に任命されました。これはガルバによる一種の策略であった可能性があります。ゲルマニア軍団は反乱の兆候を見せており、ガルバはウィテッリウスの無能さを利用し、軍団の抑制を図ろうとしたのかもしれません。しかし、ウィテッリウスの予想外の行動が事態を複雑化します。

ゲルマニア軍団は、ガリア・ルグドゥネンシス属州総督ウィンデクスの反乱を鎮圧した後、ガルバへの不満が高まっていました。その理由は、ガルバが皇帝就任に伴う伝統的な賜金の支給を怠ったこと、そしてウィンデクスとの関係が悪化していたことによるものでした。この混乱の中で、ウィテッリウスの人気が急上昇します。彼は気前の良い人物として知られており、軍団兵士たちの支持をすぐに獲得したのです。

69年1月、ゲルマニア軍団はガルバへの忠誠を拒否し、ウィテッリウスを皇帝に擁立しました。この動きは瞬く間に他の軍団にも広がり、ウィテッリウスは皇帝の座を手に入れます。その後、ローマに向けて進軍を開始したウィテッリウスの軍勢は、ガルバの後継者オトーの軍とクレモナの戦いで激突します。この戦いで勝利を収めたウィテッリウスは、元老院の承認を得て正式に皇帝となりました。しかし、彼は「カエサル」の称号を避け、「ゲルマニクスの称号」のみを用いました。

しかし、ウィテッリウスの治世は長くは続きませんでした。彼は明確な政治方針を持たず、贅沢な生活に耽溺しました。剣闘士や野獣の試合を好み、莫大な費用を浪費し続けました。わずか数ヶ月の間に、9億セステルティウス（現代の日本円にして約2250億円）もの巨額の金を費やしたと伝えられています。その大半は、豪華な食事代であったと言われています。

また、彼はオトーの軍幹部を処刑したことや、ゲルマニア軍団の軍紀の乱れにより、民衆の支持を失っていきました。69年秋、ウェスパシアヌス側に付いたプリムスの率いる軍とベドリアクムの戦いで敗北します。ローマはウェスパシアヌス軍の手に落ち、ウィテッリウスは家族とともにパラティヌスに逃げ込みますが、捕らえられ、処刑されました。彼の死は凄惨を極め、処刑場として知られるスカラエ・ゲモニアエに突き落とされたか、あるいは斬首されてローマ市街を引き回されたと言われています。

彼の贅沢な生活ぶりは、4世紀末頃に編纂された古代ローマの料理本『アピキウス』にも記録されています。同書には、ウィテッリウスが好んだとされる「エンドウ豆又はソラマメのウィテリウス風」のレシピが記載されているのです。わずか8ヶ月の皇帝生活は、歴史に贅沢と無策、そして悲劇の皇帝として刻まれました。

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