属州総督

古代ローマの属州総督

属州総督（ぞくしゅうそうとく、古典ラテン語：rector provinciae）は、古代ローマにおいて属州の行政を委任された総督です。英語では「governor」、フランス語では「gouverneur」と訳され、ラテン語の「gubernator」に由来します。属州総督は、ローマ法に基づき、属州の統治を行う重要な役割を担いました。

概要

属州総督には、プロコンスル（執政官経験者）やプロプラエトル（法務官経験者）が任命されました。彼らはローマ中央政界での要職を経験した後、属州に赴任しました。その権力は絶大で、莫大な財産を蓄え、私兵軍団を養う者もいたとされています。帝政期には、総督の任命は皇帝による場合と元老院による場合がありました。総督は皇帝属州または元老院属州に赴任し、原則として一つの属州を統治しましたが、複数の属州を任されることもありました。

責務

属州総督は、属州統治において以下の責務を負っていました。

課税と財政運営: 属州における税の徴収や財政管理を行いました。
司法: 属州における裁判や法務を担当しました。
軍事統括: 属州に駐屯する軍隊の指揮を執りました。

これらの責務を遂行するため、総督にはコミテスと呼ばれる側近が随行するのが通例でした。コミテスは総督の社会的地位によって異なりましたが、主にクァエストル（財務官）が選ばれ、属州の財務分析や、総督の承認を得た上での軍事行動を取り仕切りました。また、総督は必要に応じて、重要度の低い分野の統括を委任できる長官職を任命することもありました。

資格

属州総督になるための資格は、共和政と帝政で異なっていました。

共和政

共和政時代には、元老院が総督の選任を一手に担っていました。明確な認定基準は存在しませんでしたが、総督に与えられる軍事権限によって地位が異なりました。ほとんどの属州はプロプラエトルが統治し、国境近くの属州など長期的な軍事力が必要な場合には、プロコンスルが元老院から任命されました。

帝政

帝政に移行すると、属州はアウグストゥスによって以下の3種類に再編され、統治者も変わりました。

元老院属州: 元老院が総督を任命する属州です。総督には、コンスル（執政官）またはプラエトル（法務官）の経験を持つ議員が選ばれました。
皇帝属州: 皇帝が総督を任命する属州です。軍事的な緊張が高い地域や軍団が駐屯する属州では、全軍の最高司令官である皇帝が任命権を持ちました。皇帝属州の総督は、能力によって選ばれ、元老院議員だけでなく、エクィテス（騎士階級）の者も任命されることがありました。皇帝管轄属州の総督は、法務官格（プロプラエトル）の権限を与えられ、「Legatus Augusti pro praetore」（アウグストゥスによって任命された、法務官職権を持つ代官）と呼ばれ、元老院管轄属州の総督（プロコンスル）と同格でした。日本では一般的に「総督」と訳されますが、学術書では「代官」と訳されることもあります。
アエギュプトゥス: 例外的に、帝国の食糧供給を担う属州アエギュプトゥス（エジプト）は、皇帝の私領とされ、総督ではなく「エジプト長官（praefectus Aegypti）」と呼ばれる政務官（騎士階級）が皇帝によって任命されました。

脚注

参考文献:

弓削達『ローマ帝国論』吉川弘文館、2010年。ISBN 9784642063593。

関連項目

属州
プラエフェクトゥス
リクトル

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