アエロステオン

アエロステオン：鳥のような呼吸をした恐竜

アエロステオン( Aerosteon riocoloradensis)は、約8300万年前（白亜紀後期サントン期）のアルゼンチンに生息していた獣脚類恐竜です。1996年、メンドーサ州コロラド川付近で発見された化石に基づき、2008年に記載されました。属名は、古代ギリシャ語で「空気」を意味するἀήρ (aer)と「骨」を意味するοστέον (osteon)から成り、「空気の骨」を意味します。これは、アエロステオンの骨格に特有の構造に由来しています。

アエロステオンの特徴

アエロステオンは全長約9メートル、体重約2トンと推定される大型の二足歩行の肉食恐竜でした。発見された化石は不完全ながら、頭部の一部、多数の脊椎骨（頸椎、胴椎、仙椎）、肋骨、腹肋骨、叉骨、肩甲烏口骨、腸骨、恥骨など、骨格の多くの部分を復元できるだけの情報を含んでいました。骨の癒合状態から、この個体は完全に成熟した個体ではなかったと推測されます。

初期の研究では、アエロステオンの分類は不明瞭でした。アベリサウルス科、カルカロドントサウルス科、スピノサウルス科といった、当時ゴンドワナ大陸に生息していた大型獣脚類のいずれかに属する可能性が考えられていました。しかし、ポール・セレノらの研究により、アロサウルス上科との関連性が示唆され、後にメガラプトラ類に分類されるようになりました。近年の系統解析では、ティラノサウルス上科に位置付けられることも示されています。この分類上の変遷は、アエロステオンの系統進化における位置づけの難しさを示すものです。

独自の呼吸システム

アエロステオンの最も注目すべき特徴は、その呼吸システムです。多くの骨に空気の詰まった空間（含気性）が見られ、特に叉骨、腸骨、一部の腹肋骨に顕著です。これは、現在の鳥類に見られる気嚢系と類似しており、アエロステオンが鳥類のような呼吸方法を持っていた可能性を示唆しています。

鳥類の呼吸は、肺の収縮・拡張ではなく、気嚢の働きによって効率的に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するシステムです。セレノは、この気嚢系の発達は、体温調節を補助する役割から始まり、後に呼吸機能に組み込まれたのではないかと推測しています。この仮説は、アエロステオンの生理機能を理解する上で重要な手がかりとなります。

分類と命名の経緯

アエロステオンは、2008年にオンラインジャーナルPLoS ONEで最初に記載されましたが、当時の国際動物命名規約（ICZN）ではオンラインでの発表だけでは有効な命名とはみなされませんでした。そのため、論文が印刷され、図書館などに配布されるまで、正式な学名は認められませんでした。この問題が解決されたのは2009年5月21日で、この日付をもってアエロステオンという学名が正式に有効となりました。

近年の研究では、メガラプトラ類に分類されていたアエロステオンを含むいくつかの種が、ティラノサウルス上科に再分類される傾向にあります。これは、恐竜の系統分類における新たな知見に基づくものであり、今後も研究の進展によって分類の見直しが行われる可能性があります。アエロステオンの研究は、白亜紀後期の恐竜の進化や生理機能の解明に大きく貢献し、現在も新たな発見が期待されています。

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