アオカメムシ

アオカメムシ

アオカメムシは、カメムシ目・カメムシ亜目・カメムシ科に属するいくつかの属に含まれる昆虫の総称として用いられます。その名の通り、鮮やかな緑色を帯びた体色が特徴であり、日本で一般的に見られるカメムシの中でも代表的な存在です。多くの種類の植物に付着して栄養を摂取し、特に農作物にとっては深刻な害虫として知られています。強い刺激臭を発することも特徴の一つです。

特徴

アオカメムシの形態は、典型的なカメムシ類の特徴を備えています。全体的なシルエットは、先細りの頭部、左右に張り出した前胸部、そして畳まれた翅の下に収まる楕円形の腹部という構成です。

頭部は三角形で、その基部の両側には丸い複眼があります。触角は比較的細長く伸びています。口器は針のような形状をしており、普段は体の腹面に折りたたまれています。胸部は幅広く発達しており、その両端は丸みを帯びて尖っています。腹部はほとんどが翅の下に隠れています。

種類

日本で比較的よく観察されるアオカメムシの仲間には、以下のような種が挙げられます。

アオクサカメムシ (Nezara antennata)
おそらく最も広くその名を知られている種です。全身が均一な緑色をしています。日本全土に広く分布し、多様な植物から吸汁しますが、特にマメ科などの農作物に被害を与える害虫として認識されています。

ミナミアオカメムシ (Nezara viridula)
アオクサカメムシと非常に似ており、識別が難しい場合があります。本州の太平洋沿岸南部から南西諸島、そして熱帯地域に広く分布しています。水田のイネや他のイネ科植物の穂に好んで集まります。

※ アオクサカメムシとミナミアオカメムシには、全身緑色だけでなく、前胸部が黄色い個体、体の周囲に黄色い縁取りを持つ個体、黄色地に緑色の斑点が出る個体など、多様な体色変異が見られます。これらは遺伝によって受け継がれる性質であると考えられています。

ツヤアオカメムシ (Glaucias subpunctatus)
アオクサカメムシよりもやや大柄で、体表面には独特の光沢があります。様々な果実に集まって吸汁しますが、次世代を繁殖させるためには、スギやヒノキの球果（松かさのようなもの）の中にある種子を摂食することが必要不可欠です。

チャバネアオカメムシ (Plautia crossota stali)
その名の通り、翅の部分が茶色をしているアオカメムシです。ミカンをはじめとする多種多様な果物や野菜の果実に被害をもたらします。繁殖には、ツヤアオカメムシと同様にスギやヒノキの球果内の種子が必要となります。

エゾアオカメムシ (Palomena angulosa)
本州中部以南では主に山間部に生息しています。様々な種類の草本植物に付着しますが、マメ科の農作物を食害することもあります。

生活史

アオカメムシ類の成虫は、餌となる植物の葉などに数十個の卵を塊にして産み付けます。卵は楕円形で、上部には蓋のような構造があります。孵化した幼虫は、その蓋を押し上げて外に出てくると、しばらくの間は卵が産み付けられていた場所の近くに集まって過ごします。その後、栄養を摂取するために移動を始めますが、幼虫の初期段階では集団で移動することが多く、成長が進むにつれて徐々に分散していきます。孵化直後の幼虫は黒っぽい体色をしていますが、脱皮を繰り返して成長するにつれて、次第に緑色に変化していきます。

通常、年に2〜3回の世代を繰り返します。成虫の状態で冬を越し、春になると活動を開始して産卵します。春に孵化した第一世代が夏以降に成虫となり産卵し、成長の早い個体は夏の間にもう一度世代を重ねることがあります。

利害

アオカメムシ類の多くは、農業において深刻な害虫と見なされています。幼虫が餌とする植物は種類によって比較的限定される傾向がありますが、成虫はより幅広い種類の植物から吸汁するため、被害を受ける農作物の範囲も広範囲に及びます。

水田のイネに寄生した場合、若い穂に集まって汁を吸います。汁を吸われた部分は、米粒になった際に褐色に変色することがあり、これを「斑点米（はんてんまい）」と呼び、米の商品価値を著しく低下させます。

ミカンやカキなどの果樹では、チャバネアオカメムシやツヤアオカメムシが集まることがあります。これらのカメムシが若い果実から吸汁すると、その部分の成長が悪くなり、果実の表面が凸凹に変形してしまいます。ある程度成熟した果実が被害を受けた場合、外見上は小さな傷跡が残る程度でも、内部組織がスポンジのようにスカスカになったり、そこから腐敗が進行したりすることが多く見られます。

これらの被害が発生するメカニズムは、カメムシが口針を植物組織に突き刺して破壊すると同時に、消化酵素を含む唾液を注入し、植物組織を液状化させたものを吸収するためです。これにより、摂食された植物組織の内部に広範な損傷が生じます。

大発生

アオカメムシ類は、様々な農作物に被害をもたらす存在ですが、過去には周期的に大規模な発生が見られ、社会的な注目を集めてきました。

一例として、1950年代後半にはミナミアオカメムシが水田で異常発生し、四国や九州地方の稲作に大きな打撃を与えました。これは、農薬の普及により他の主要害虫が減少した結果、稲作の方法が変化し、イネの穂が出る期間が長期化したことが一因であるとも言われています。この大発生は約10年ほどで沈静化しました。

また、1990年代頃からは、特に西日本各地でチャバネアオカメムシやツヤアオカメムシ、クサギカメムシといった複数のカメムシ類が大規模に発生しました。この時の発生は非常に広範囲にわたり、出現する個体数も桁外れに多かったことが特徴です。大発生した地域では、夜になると街灯などの明るい場所に無数のカメムシが集まり、隙間なく覆いつくしたり、光の周囲を飛び回るカメムシがまるで雲のように見えたりするほどでした。カメムシの大群は日を追って移動していったようです。

この大発生による被害は甚大で、例えば和歌山県では1992年に、県南部のウメ畑だけで約13億円の被害額が試算されています。発生ピーク時には、10アール（約1000平方メートル）あたり500万頭ものカメムシがいたと推定される数値も報告されています。

大量発生したカメムシは、ウメ、ミカン、カキなどの果樹園に次々と侵入し、壊滅的な被害をもたらしました。殺虫剤を散布しても、カメムシは隣接する畑へ移動するだけで、数を減少させる効果はほとんど得られませんでした。誘蛾灯の下に水を張った容器を置いて溺れさせるなどの方法も試みられましたが、あまりに数が多すぎて容器がカメムシで満杯になり、捕殺の役割を果たせなくなる事例も見られました。

この時期の大規模発生の主な原因として、同時期にスギやヒノキの人工林がカメムシの繁殖に適した樹齢に達し、それらの林でカメムシの餌となる種子が大量に供給されたことが挙げられています。興味深いことに、花粉症患者の増加もほぼ同じ時期に顕著になったとの指摘もあります。

飼育

アオカメムシ類は重要な農業害虫であるため、その生態特性の解明や、効果的な殺虫剤の開発・試験のために、農業試験場などの研究機関でしばしば継続的な飼育（累代飼育）が行われています。アオカメムシ類の多くは、様々な植物から吸汁しますが、本質的には植物の種子を主な栄養源とするため、乾燥させた大豆や落花生などの種子を餌として与え、水分を十分に含ませた脱脂綿などを給水源とすることで、比較的容易に飼育を続けることが可能です。

関連項目

カメムシ

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