アカデミー室内管弦楽団

Academy of St Martin in the Fields (ASMF) は、英国の首都ロンドンを拠点とする著名なオーケストラ団体です。一般的には「ジ・アカデミー（The Academy）」の略称でも知られています。

その名称の由来は、設立当初の拠点であったセント・マーティン＝イン＝ザ＝フィールズ教会にあります。原語である「Academy of St Martin in the Fields」を直訳すると「セント・マーティン＝イン＝ザ＝フィールズ教区アカデミー」となりますが、日本国内では「アカデミー室内管弦楽団」という訳称が広く用いられています。しかし、この訳称については、音楽評論家の吉田秀和氏らから、文字通りの「室内楽団」の規模を超えた編成で演奏する場合もあることから「誤訳」であるとの指摘や批判があります。実際、編成が拡大される際には、「セント・マーティン・アカデミー管弦楽団」といった名称が使われることもあります。

このオーケストラは、指揮者ネヴィル・マリナーによって1959年に設立され、同年11月に最初の演奏会を開催しました。設立当初は、セント・マーティン＝イン＝ザ＝フィールズ教会を活動拠点とする、指揮者を置かない小編成の弦楽合奏団でした。特に17世紀から18世紀にかけての音楽、すなわちバロック音楽の演奏を得意とし、当時の演奏習慣に基づいた新しい解釈や奏法を取り入れることで、バロック音楽演奏の復興に重要な役割を果たしました。

音楽学者で鍵盤楽器奏者でもあったサーストン・ダートが校訂した楽譜を用いたヨハン・セバスチャン・バッハの『管弦楽組曲』や『ブランデンデンブルク協奏曲』、またアントニオ・ヴィヴァルディの『四季』などの録音は、それまでの演奏とは異なる新鮮なアプローチを示し、当時の音楽界で大きな注目を集めました。

その後、管楽器の奏者を加えて編成を拡大するようになり、演奏する楽曲に合わせてその規模を変える柔軟な形態をとるようになりました。バロック音楽にとどまらず、古典派音楽から現代音楽に至るまで、幅広い時代の楽曲をレパートリーに加えて演奏活動を展開しています。古楽器を用いた演奏団体が登場し、モダン楽器のオーケストラも「古楽奏法」を取り入れるようになるなど、音楽界の潮流が変化する中でも、アカデミー室内管弦楽団は独自の道を歩み続けています。

録音活動も非常に活発で、特に英デッカ（ロンドン）やフィリップスといった名門レーベルを中心に、膨大な数のアルバムをリリースしています。これらの録音は世界中で高く評価されています。クラシック音楽の通常録音に加え、映画音楽の分野でもその名を知られています。特に、1984年の映画『アマデウス』のサウンドトラック演奏は非常に有名で、この作品を通じて、普段クラシック音楽に馴染みのない人々に対しても、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの偉大な作品群（例えば、2つのト短調交響曲やレクィエム、ピアノ協奏曲第20番など）の魅力を広く伝えました。他にも、映画『タイタニック』のサウンドトラックや、フィンランドのシンフォニックメタルバンドであるナイトウィッシュのアルバム『ワンス』への参加など、ジャンルを超えた活動でも成功を収めています。

オーケストラには、1975年に付属する合唱団「Chorus of St Martin in the Fields」が併設されました。この合唱団は、特に録音の機会が少ないため、ヨーロッパ域外での知名度は必ずしも高くありませんが、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグの大会テーマ曲（賛歌）を歌っていることで知られています。

歴代の音楽監督や主要な指揮者としては、創設者のネヴィル・マリナー（1959-1978年に指揮者、2011年まで音楽監督を務めた）が挙げられます。マリナーが指揮者の役職をアイオナ・ブラウンに譲った1978年以降も、事実上の指揮活動や音楽監督としてオーケストラへの関与は長く続きました。マリナーの不在時には、アイオナ・ブラウン（1978-2004年に指揮者を務め、リーダーも兼任）、ケネス・シリトー（1980年より芸術監督を務め、リーダーも兼任）らが代わりに指揮を務めました。その他、著名な指揮者としては、マレイ・ペライア（2000年より首席客演指揮者）、合唱指揮者としてラースロー・ヘルタイ（1975-1999年）、現合唱指揮者のヨハン・デュイック（1999年より）がいます。2011年からはヴァイオリニストのジョシュア・ベルが音楽監督を務めています。

公式な情報については、オーケストラの公式ホームページなどで確認できます。

もう一度検索