管弦楽組曲

管弦楽組曲とは

管弦楽組曲は、オーケストラによって演奏される組曲のことで、特にバロック音楽の分野において、18世紀前半にドイツを中心に作曲が盛んに行われました。フランス風序曲形式の序曲に始まり、舞曲を主体とした小曲が続く構成が特徴です。ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの『水上の音楽』や『王宮の花火の音楽』、ゲオルク・フィリップ・テレマンの『ターフェルムジーク』などが知られています。

当時、これらの組曲は「序曲」と呼ばれることが一般的でした。これは、フランス風序曲で始まる作品という意味合いが強かったためです。

J.S.バッハの管弦楽組曲

今日、「管弦楽組曲」と言えば、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品を指すことが多くなっています。バッハの『管弦楽組曲』は、BWV 1066から1069までの4つの独立した組曲から構成されており、バッハの代表的な管弦楽作品として知られています。

成立と変遷

バッハの管弦楽組曲は、ケーテン時代(1717年-1723年)またはそれ以前のヴァイマル時代(1708年-1717年)に作曲されたと考えられています。しかし、トランペットやティンパニを含む第3・第4組曲の編成は、当時のケーテン宮廷の規模には不釣り合いであったため、ライプツィヒ時代（1723年以降）にコレギウム・ムジクムでの演奏のために加筆された可能性が高いとされています。

また、第4組曲の序曲は、カンタータ110番の冒頭合唱曲に転用されています。なお、BWV 1070とされる「第5番」は、今日では長男フリーデマンの作とされています。

バッハ自身は、これらの作品を「組曲」とは呼ばず、「序曲」と呼んでいました。これは、バッハにとって組曲とは、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグの4曲から成る狭義の組曲を指していたためです。そのため、新バッハ全集では「4つの序曲（管弦楽組曲）」と表記されています。

編成

バッハの管弦楽組曲のオリジナル版は、散逸または破棄されたと考えられています。例えば、第2組曲のフルートパートは、オーボエパートから直されたことがわかっています。また、第3・第4組曲のトランペットとティンパニのパートも、後から加筆されたと考えられています。

本来、これらの組曲は小規模な室内合奏を想定して作られたと考えられていますが、後世に「管弦楽組曲」と流布したため、室内オーケストラで演奏されるのが一般的になりました。

現代では、第2組曲と第3組曲が特に演奏される機会が多く、グスタフ・マーラーによる編曲版も存在します。

各組曲の解説

第1番 BWV 1066

ハ長調で、演奏時間は約20～25分です。オーボエとファゴットがトリオソナタのような役割を果たし、合奏協奏曲に近い編成となっています。

編成：オーボエ2、ファゴット、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音
構成：序曲、クーラント、ガヴォット（I-II-I）、フォルラーヌ、メヌエット（I-II-I）、ブーレ（I-II-I）、パスピエ（I-II-I）

第2番 BWV 1067

ロ短調で、演奏時間は約20～25分です。フルートが活躍する、フルート協奏曲のような形式です。

編成：フルート、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音
構成：序曲、ロンド、サラバンド、ブーレ（I-II-I）、ポロネーズ、メヌエット、バディヌリー

第3番 BWV 1068

ニ長調で、演奏時間は約20～25分です。

編成：トランペット3、ティンパニ、オーボエ2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音（ファゴットも使用される場合あり）
構成：序曲、エール（アリア、通称「G線上のアリア」）、ガヴォット、ブーレ、ジーグ

第4番 BWV 1069

ニ長調で、演奏時間は約20分です。

編成：トランペット3、ティンパニ、オーボエ3、ファゴット、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音
構成：序曲、ブーレ（I-II-I）、ガヴォット、メヌエット、レジュイサンス

マーラー版

グスタフ・マーラーが1909年に編曲したもので、第2番と第3番から楽曲を自由に抜粋し、再構成したものです。編成やアクセントの付け方などで原曲と異なる部分があります。演奏時間は約25分。

編成：弦合奏、フルート、オーボエ2、トランペット3、ティンパニ、通奏低音（ピアノ、オルガン、またはチェンバロ）、必要に応じてクラリネット
構成：序曲（第2番より）、ロンドとバディヌリー（第2番より）、アリア（第3番より）、ガヴォット（第3番より）

まとめ

管弦楽組曲は、バロック音楽の華やかさと多様性を堪能できる作品群です。特にJ.S.バッハの4つの組曲は、それぞれ個性的な構成と美しい旋律を持っており、今日でも多くの人々に愛されています。また、マーラーによる編曲版も、原曲とは異なる魅力を引き出しており、聴き比べるのも面白いでしょう。

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