アカネズミ

アカネズミ（赤鼠）

アカネズミ（学名：Apodemus speciosus）は、ネズミ目ネズミ科アカネズミ属に分類される小型の齧歯類です。日本列島の固有種として知られ、北海道から九州にかけてほぼ全域に生息しています。

形態

体色は、吻端から尾の先端にかけて、背側が鮮やかな橙褐色、腹側が白色であることが特徴です。体のサイズには幅があり、頭胴長は80mmから140mm、尾長は70mmから130mm、後足長は22mmから26mm、体重は20gから60g程度です。乳頭の数は、胸部2対、腹部0対、鼠径部2対の合計8個（2+0+2=8）です。

同属のヒメネズミと形態が類似しており、識別には注意が必要です。アカネズミは、ヒメネズミに比べて尾長が頭胴長とほぼ同じかやや短く、後足が長い傾向があります。また、染色体の数にも地域差があり、黒部川と天竜川を境に東側では染色体数2n=48、西側では2n=46の個体群が見られます。北海道に生息する個体は、本州のものよりやや大型であることが知られています。

ヒメネズミとの確実な識別には、頭骨の標本を作成し、頬骨弓が前方に丸みを帯びて膨らんでいるかを確認する方法が有効とされます。他にも、頭蓋骨の長さや、尾長と後足長の比率などが識別点として挙げられます。生きた個体を識別するための簡便な方法としては、「眼球間最大幅から眼球間最小幅を引いた値」と「眼球直径」の比を用いる手法が提唱されています。

生態

低地の平野部から標高の高い山岳地帯まで、多様な環境に生息しています。具体的には、森林の内部や縁、田畑のあぜ道、河川敷の茂みなどが主な生息場所です。夜行性で、主に地上を活動範囲としています。単独で行動することを好み、地面に巣穴を掘って生活します。

食性は主に植物質で、木の種子や地下茎などを食べますが、昆虫を捕食することもあります。岩の隙間や狭い空間を好んで利用し、そこで採集した食物を前足で器用に持ちながら食べます。特にクルミを食べるときは、殻に特徴的な2つの穴を開けて中身を取り出すため、その食痕を見つけることで生息を確認できます。

秋になると、ドングリやクルミなどの食物を、掘った巣穴の中や岩陰といった隠れた場所、あるいは地面に埋めて貯蔵する習性があります。後足の筋肉がよく発達しており、1日あたり数キロメートルもの広い範囲を移動することが可能です。

分類上の変異

アカネズミは、生息する島や地域によって形態に様々な変異が見られます。かつては、これらの地域個体群を独立した亜種、あるいは独立種として扱う説もありました。

ホンドアカネズミ (A. s. speciosus) - 本州など
サドアカネズミ (A. s. sadoensis) - 佐渡島
オオシマアカネズミ (A. s. insperatus) - 伊豆大島
ミヤケアカネズミ (A. s. miyakensis) - 三宅島
オキアカネズミ (A. s. navigator) - 隠岐諸島
ツシマアカネズミ (A. s. tusimaensis) - 対馬
セグロアカネズミ (A. s. dorsalis) - 屋久島
エゾアカネズミ (A. s. ainu) - 北海道

特にミヤケアカネズミは小型で体色が濃く、腹部が茶褐色になる特徴を持ち、東京都版レッドデータブックではCランクに位置づけられています。北海道のエゾアカネズミは、本州産より大型になる傾向があります。

しかし、近年の研究では、これらの地域ごとの形態差は種内の地理的な変異と見なす考え方が有力となっており、現在はこれらの亜種を有効とせず、全体を単一のApodemus speciosusとして扱う見解が主流となっています。

近縁種

北海道には、ユーラシア大陸北東部（朝鮮半島からシベリア東部）に分布するハントウアカネズミ（Apodemus peninsulae）の亜種であるカラフトアカネズミ（A. p. giliacus）も生息しています。カラフトアカネズミはアカネズミよりもやや小型です。生態はアカネズミと似ていますが、両種が同じ地域に生息している場合、アカネズミが主に森林を利用するのに対し、カラフトアカネズミは草原や藪を主な生息場所とする傾向があり、棲み分けが見られます。

参考文献

小宮輝之『日本の哺乳類』学習研究社〈フィールドベスト図鑑〉、2002年。
金子之史『ネズミの分類学』東京大学出版会、2006年。
中園美紀、岩佐真宏「地表棲小型哺乳類生態調査への自動撮影センサーカメラ使用法の検討」『哺乳類科学』第55巻第1号、日本哺乳類学会、2015年、59–65頁。
佐々木彰央、山本幸介「アカネズミとヒメネズミ」『自然史しずおか』第53巻、2016年、10頁。

関連項目

* 日本の哺乳類一覧

もう一度検索