アキテーヌ公

アキテーヌ公：フランス南西部の歴史を彩った君主たち

アキテーヌ公は、フランス南西部のアキテーヌ地方を支配した君主の称号です。その歴史は古く、西ゴート王国、フランク王国、そしてイングランドとの複雑な関係の中で、領土と権力は何度も変化しました。アキテーヌ公の所領を表す言葉としては、アキテーヌ、ギュイエンヌ、ガスコーニュなどが用いられましたが、それらの厳密な区別は必ずしも明確ではありません。一般的に、ギュイエンヌはアキテーヌ地方の北西部（ポワトゥーを除く）、ガスコーニュは南西部を指すことが多いとされています。ボルドーのトロンペット城がアキテーヌ公の主要な拠点でした。

アキテーヌ公の歴史：フランク王国との抗争から百年戦争へ

6世紀初頭、アキテーヌ地方は西ゴート王国の領土でしたが、507年のヴイエの戦いによってフランク王国に征服されました。しかし、フランク王国の支配は安定せず、アキテーヌ地方ではたびたび独立勢力が台頭し、フランク王権と対立しました。8世紀初頭には、ボルドー伯ウードが事実上の独立を果たしました。

729年、ウマイヤ朝軍の侵攻を受け、ウードはカール・マルテルに援軍を要請。732年のトゥール・ポワティエ間の戦いでイスラム軍は敗れましたが、アキテーヌ地方の独立はその後も続きました。768年、アキテーヌ公ワイファリが暗殺された後も、彼の息子ウナール2世が反乱を起こすなど、フランク王国との抗争は続きました。

カロリング朝時代、アキテーヌは一時的に独立王国として設置され、ルイ1世（後のルイ1世）やその子孫が支配しました。その後、西フランク王国に編入されましたが、ポワトゥー伯家、オーヴェルニュ伯家、トゥールーズ伯家などがアキテーヌ公位を争いました。10世紀後半、ポワトゥー伯ギヨーム3世がアキテーヌ公となり、12世紀までポワトゥー伯家がアキテーヌ公位を継承しました。11世紀半ばにはガスコーニュ公領も併合し、アキテーヌ公の勢力はロワール川からピレネー山脈、大西洋からオーヴェルニュ中央山岳地帯にまで広がり、フランス王の領地をはるかに凌駕する広大で豊かなものとなりました。

イングランド王家による支配と百年戦争

1137年、アキテーヌ公ギヨーム10世の死後、その娘アリエノールがフランス王ルイ7世と結婚し、アキテーヌ公となりました。しかし、結婚は破棄され、アリエノールはアンジュー伯アンリ（後のイングランド王ヘンリー2世）と再婚。アキテーヌ公領はイングランド王家の支配下に入りました。

イングランド王家はアキテーヌ公領を領有しましたが、フランス王への臣従を強いられました。アキテーヌ地方の領主たちはしばしばイングランド王に反乱を起こし、フランス王に臣従することもありました。百年戦争においても、アキテーヌは重要な戦場となりました。イングランドは一時的にアキテーヌでの主権を認められましたが、フランス王による奪還の試みは続き、最終的に1453年のカスティヨンの戦いでイングランド軍が敗北し、アキテーヌは完全にフランス王領となりました。

歴代アキテーヌ公

アキテーヌ公の称号は、その歴史の中で多くの君主に継承されました。メロヴィング朝、カロリング朝、ポワトゥー伯家、そしてイングランド王家など、様々な勢力がアキテーヌ公の地位を占めました。それぞれの時代において、アキテーヌ公の権力と領土は変化し、フランク王国やイングランドとの関係の中で、常に複雑な政治的駆け引きが繰り広げられていました。

アキテーヌ公の歴史は、フランス南西部の歴史そのものであり、複雑でダイナミックなヨーロッパ中世史の一端を担っています。この領域をめぐる権力闘争は、フランスとイングランドの長い対立の歴史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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